犬の腎臓病は、高齢になると増えていきます。
腎臓病の治療は、食事療法なしでは考えられないと言っても過言ではないでしょう。
腎臓の正常な機能をできるだけ長く保つには食事の内容がとても重要なのです。
今回の記事では、犬の腎臓病の食事のポイントについて、お伝えしたいと思います。
腎臓は毒素を体外に排泄させる
腎臓がおしっこを作る臓器であることは、よく知られていると思います。
血液中には、代謝の副産物として必要のない毒素などが溜まっていきます。
腎臓は、生体に必要か不要かを振り分けるフィルターの役割をし、体に必要な物質だけを血液中に残して、不要な毒素をおしっことして排泄します。
腎臓には、このような振り分けフィルターが無数にあり、このフィルターユニットをネフロンと呼んでいます。
腎臓の機能不全
腎臓の機能が壊れてしまう原因はいくつもあります。
- 腎炎などの腎臓病
- 尿路結石
- 感染症
- 毒物による中毒
- 加齢など
腎臓の機能が壊れて、正常に働かなくなった状態が腎不全です。
腎不全には、急性と慢性があります。
急性腎不全は、その名前通り急に発症、進行し、適切な治療がなければ、数日以内に亡くなることもあるほど急速な経過をたどります。
慢性腎不全は、主に高齢の犬に多く見られ、じわじわと進行します。
元気がないのは高齢のせいではなく、実は腎臓の機能がかなり悪かったということもあるようですので注意が必要ですね。
腎臓病には食事が大きく影響する
腎臓に負担をかけない為には、体内に入る物質を制限しなければなりません。
つまり食事内容の制限です。
急性腎不全は入院による集中治療が優先になるので、食事療法が必要になるのは主に慢性腎不全の方です。
腎臓と食事はとても関係が深いのです。
まず口から食事(栄養素)を摂りこむと、体内でエネルギーに変換されます。
栄養素をエネルギーに変換する時の代謝で産生された老廃物は、体外に排出されます。
腎臓は、3大栄養素である糖質・脂質・蛋白質のうち、蛋白質から出た老廃物の排泄をおこないます。
蛋白質を多く摂取すれば、腎臓が処理に追われ、それだけ負担がかかることになります。
蛋白質は、エネルギー代謝の過程で「インドキシル硫酸」という老廃物質を産生します。
この老廃物は、尿毒症を起こしてしまう主な原因物質です。
残された腎機能にできるだけ負担をかけず、腎臓を長持ちさせる為には、蛋白質の摂取量の制限が必要です。
食事制限の3つのポイント
腎臓病の食事は、次の3つがポイントになりますので、是非覚えておいて下さい。
- 蛋白質
- リン(P)
- ナトリウム
腎臓病の食事で注意すべき、制限すべきなのはこの3つです。
蛋白質制限
蛋白質の代謝で産生される老廃物は、窒素(ちっそ)です。
腎臓は、窒素を最終的に尿素に変えて、体外に排出させます。
腎臓の機能が悪いと、窒素がいつまでも血液中に残り蓄積していくのです。
この状態での血液検査をすると、尿素窒素(BUN)という項目が高値になります。
血液中に蓄積していく窒素は、体にとっては毒素です。
蛋白質は生体には欠かせない栄養素ですが、腎臓病がある場合はうまく代謝できないので、蛋白質の制限が必要なのです。
ちなみに蛋白質には動物性と植物性がありますが、植物性の方が窒素の含有量は少ないです。
腎臓病の犬に与える蛋白源は、動物性よりも植物性の方がよりよいということになります。
リンの制限
リンは、検査データなどで「P」と表示されている項目のことです。
リンは、その80%が骨や歯に存在しています。
DNA、RNA、ATP、細胞膜などを構成する大事な成分であり、地味ですが大変重要な栄養素です。
リンは、体内でカルシウムとペアになって一緒に動きます。
その動きに関わるのが、副甲状腺から出されるパラソルモンというホルモンです。
リンを多く摂りすぎると、パラソルモンはリンの濃度を下げようとします。
リンを下げる為には、一緒に動くカルシウムも必要なので、骨や歯にあるカルシウムを溶かして血液中に放出します。
不要なリンは腎臓から排出されるのですが、リンとカルシウムが結合した物質は腎臓に沈着しやすく、ストルバイト尿路結石の原因になります。
リンを摂りすぎれば、カルシウムと結合させて排泄するように体が働き、その結果、腎臓がダメージを受けるのでリンの制限が必要になるのです。
ナトリウム制限
ナトリウム=Naclは、塩分のことです。
腎臓は、過剰になったナトリウムも体外に排泄しますが、腎機能が悪いと血液中に残ったままになります。
その結果、血中ナトリウム濃度が高くなるので、血管内の濃度を一定に保つために血管内に水分を引き込んで薄めようとします。
つまり、ナトリウムは血管内の水分を増やすのです。
そして血圧が上昇し、心臓にも負担がかかります。
血圧が上昇すれば、腎臓への血流が一気に増えて負担が大きくなります。
これを避けるためにはナトリウム制限が重要です。
腎臓病の療法食に早期に切り替える
腎臓のネフロンは、75%が破壊されるまでは症状もあまりありません。
腎臓病は、無症状で軽度のステージの時に異常を発見し、できるだけ早期から食事療法などの対処をおこなうのがベターです。
食事療法は、開始が早ければ早いほど良好な経過が望めるので、早急に腎臓の療法食に切り替えてあげて下さい。
腎臓の療法食は、動物病院でもお勧めがあると思いますが、通常は蛋白質の含有量20%以下が標準です。
療法食のフードは、味がそれまでと大きく変わってしまい、はっきり言って美味しくないことが多いようで、なかなか食べてもらえないという悩みも多いです。
療法食にも種類がありますので、お試しをしてみて食べてくれそうなものを選んであげて下さい。
ナチュラルハーベスト (療法食) キドニア 腎臓ケア
腎臓にトラブルがある犬のための食事療法食です。
日本の獣医師と、米国の獣医師が共同で開発した腎臓の療法食ドライフードです。
フォルツァ10 Forza10 リナールアクティブ(腎臓ケア療法食)
高品質のタンパク質と、タンパク質とリン、ナトリウムの含有量を抑え、カリウム:ナトリウムの比率にもこだわった腎臓病の療法食フードです。
心不全の犬の療法食にも適しています。
【ヒルズ】 犬用 腎臓ケア k/d 缶詰
腎臓病の犬のためにたんぱく質、リン、ナトリウムを調整した特別療法食です。
こちらは缶詰のウェットフードです。
食欲がない、療法食ドライフードではなかなか食いつきがよくない、高齢で食べにくいという時などにお勧めです。
エランコジャパン ドクターズケア 犬用 キドニーケア 食事療法食ドライ
腎臓病の犬のためにリン、たんぱく質およびナトリウムの含有量が調整された療法食です。
腎臓の健康維持に配慮してオメガ3脂肪酸も配合されています。
FORZA10 リナール(腎臓ケア) アクティウェット 100gX12缶(フォルツァディエチ)療法食
パテタイプの腎臓療法食ウェットフードであり、トッピングとしてもそのまま食事としても与えることができます。
無農薬など、食材にこだわったプレミアムフードになっています。
腎臓病の食事を手作りするコツ
腎臓病の食事療法を完全に手作りするのはかなり難しいと思います。
でも市販の療法食は味がずいぶん違うのか、食べてくれない、いったいどうすればよいのかと悩む飼い主さんは多いです。
腎臓の食事療法のポイントを理解して、時々は手作りもしながら工夫することも必要かもしれません。
1.良質な蛋白質
【候補になる食材】
鶏肉・豚肉・卵・ヨーグルト・カテージチーズ・納豆・豆腐・豆乳・枝豆など
卵はアミノ酸スコアが高く良質な蛋白質です。
さらに植物性の蛋白質を上手に足して、取り入れるようにするとよいと思います。


ただし、蛋白質は最低限の量に抑えなければなりません。
《蛋白質の量の目安:体重×2.2g~体重×3.5gの範囲内で調整!》
肉の生食は、腎臓の機能に負担がかかりますので避けるようにしましょう。
蛋白質を制限する分、食事内容に少しでも変化を持たせるようにしてあげて下さい。
2.エネルギー源
蛋白質を多く使うことができない分、エネルギーを脂質や糖質で補わなければならなくなります。
最近は、穀物不使用で肉中心のフードが多く、そのようなフードを選んで食べさせていた飼い主さんも多いと思います。
でも腎臓の食事療法は、それと真逆の食事に切り替える必要があります。
脂質はカロリー源として重宝しますので、良質の脂を少量足してあげると良いです。
オメガ3などは犬にもお勧めの脂質です。
カロリー不足になると、腎臓の機能だけでなく全身状態の悪化の原因になります。
これは人間の話ですが、私が透析室の看護師をしていた時、腎不全で透析を受けていた患者さんの食事には、羊羹などの甘いデザートが大抵付いていました。
蛋白質が制限されている分、そのような食材を足すことでカロリー調整がされているのです。
ただし腎不全の食事と透析食は多少違いがあります。
透析により毒素の排出は可能なので、制限が緩くなる部分はあります。
3.ミネラル分の調整
上記が理想の比率とされます。
でも、これを手作りで測って作ることは現実的に無理だと思います。
リンを腸内で吸着させて体外へ排出させるサプリメントなどもあり、病院で処方される可能性もあるので、獣医師と相談してみて下さい。
人間の透析患者さんもリンの数値が高くなります。
その対策として、リンを吸着・排出させる炭酸カルシウムが処方されます。
ナトリウム(塩分)は、腎臓が良いか悪いかに関わらず犬には良くありません。
ナトリウムを含んでいるような食べ物は、腎臓の食事には論外です。
カリウムは野菜や果物に多く含まれるミネラルですが、これも制限が必要になることがあります。
カリウムの数値は、腎臓の機能がどの程度悪いかにもよります。
治療に利尿剤を使っている時には、反対に低カリウムになってしまうこともあります。
カリウムは高すぎても低すぎても重大な影響があるのです。
ナトリウムやカリウムの数値は、血液検査をすればわかります。(Na、Kと表記される項目)
もしカリウムの排泄がうまくいかず数値が上昇するようであれば、制限しなければなりませんが、ここはあくまでも医師の判断です。
腎臓病の食事療法は複雑で難しいです。
しかし、残された機能が少ない場合、犬には継続的な透析治療という手段がないので、食事が命を左右すると言っても過言ではないと思います。
飼い主さんも最大限の努力で取り組んであげて下さい。
まとめ
犬の腎臓病の治療は、食事療法がメインです。
腎臓病の食事は簡単なものではなく、しかも日常的なことになるので、人の場合でもなかなか守られないことが多いです。
犬の腎臓食の本もあるようですが、それよりも人の腎臓食の本などに一度目を通されてみると、基本的なことが把握しやすいのではないかと個人的には思います。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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