『犬の十戒』~犬との約束~にGo!
PR

犬の熱中症の死亡率・症状・発症しやすい環境と予防

犬の病気
この記事は約12分で読めます。

熱中症は夏場の話と思いがちですが、条件が揃えば季節問わず、いつでも危険があるので要注意です。

私が人間の医療で救命センターの看護師をしていた時、熱中症患者さんと遭遇する機会が多くありました。

熱中症は短時間で重症化して、症状が進行すれば命の危険があります。

犬の熱中症も人と同様です。

熱中症で亡くなった犬の話は、SNSなどでも目にしました。

この記事では、犬の命を守るために、熱中症が起こりやすい環境や症状についてみなさんと情報共有したいと思います。

スポンサーリンク

熱中症は短時間で起こる全身疾患と考えて

私達は、運動や作業をするたびに体が温まったり、暑くなったりしますよね。

それは生体が活動することで熱を発してるからです。

体が熱を作り出すことを産熱と呼び、逆にその熱を逃がすことを放熱と呼びます。

産熱と放熱のバランスを取ることで、通常、体温は一定に保たれています。

熱中症というのは、産熱と放熱のバランスが崩れてしまった状態です。

激しい運動・炎天下・外気温の高い場所などで急激に体温が上昇し、その熱を逃がすことができなければ、全身の臓器の機能に異常があらわれます。

つまり、体内に熱がこもった状態です。

熱がこもったまま高体温が持続すると、生体の組織は破壊されていくのです。

その影響は、脳・心臓・肝臓・腎臓などの重要な臓器に及びます。

重症化するとやがて多臓器不全になり、命を失くしてしまいます。

スポンサーリンク

犬は人よりも熱中症になりやすい

では、熱を逃がす(放熱)とはどのように行われるのでしょうか?

体温があがり、体内に溜まった熱は、私達が汗をかくことで放熱します。

人の汗腺は全身にあるので、汗を全身から出すことができ、効率よく熱を放散できます。

でも犬と人の汗腺の分布は違います。

犬には、汗を出すことができる汗腺(エクリン腺)は、肉球や鼻の付近などのごく一部にしかないのです。

犬の全身にはアポクリン腺がありますが、この腺は体臭の元になる皮脂を分泌するものであり、体温調節をする汗の分泌はできません。

犬は、舌を出してハァハァと速い呼吸をするパンティング( panting)という動作で、体温調整をおこなっています。

パンティングで舌から唾液(水分)を蒸発させ、その気化熱で体温調節をおこなうという、人よりもはるかに効率が悪い方法です。

犬はそんな効率の悪い方法でしか調整できないので、高体温になると元に戻すのに時間がかかり、人よりも熱中症になりやすいです。

スポンサーリンク

熱中症ハイリスクの犬種

いわゆる、短頭犬種と呼ばれる犬種は、特に放熱の効率が悪く、熱中症になりやすいです。

【短頭犬種】

シーズー・パグ・ボストンテリア・フレンチブルドッグ・ペキニーズなど

このような種類の鼻が低い犬種は、鼻腔が小さくて空気の通り道が狭くパンティングも他の犬種と比較して効率が悪いです。

短頭犬種が特に高体温に陥りやすい危険は、おそらくこれらの犬種を好きな飼い主さんならご存じでしょう。

飛行機に搭乗させる時も、死亡事故を防ぐために、航空会社ごとに犬種指定による制限があります。

【ANA規定】

【JAL規定】

また、寒い地域が原産の犬種は、寒さには強いですが暑さには大変弱いです。

【寒冷地原産の犬種】

サモエド・アラスカンマラミュート・シベリアンハスキーなど

過去に、テレビ番組のレギュラーとして人気で、2012年に熱中症で亡くなったZIPPEI(ジッペイ)という犬もサモエドという犬種でした。

ZIPPEI(ジッペイ)は、8月という真夏にエアコンの切れた車内に置かれていたため、一緒にいた6匹の兄弟とともに亡くなりました。

この時は、様々な批判が飛び交いました。

当時の詳細は、今もこちらで見ることができるようです。

そして、犬種に限らず、心臓に病気のある犬や気管虚脱を持っている犬なども、呼吸器や循環器の機能が元々低いため、熱中症で急変しやすいです。

同じ理屈で、肥満の犬も、脂肪に包まれているために熱が体内にこもりやすく、気管が狭かったり心臓に負担がかかりやすくなるので要注意です。

老犬や子犬なども、身体機能が弱っていたり未熟であるためにハイリスクです。

そして、淡い色の犬より黒い被毛を持った犬の方が、若干体温が上がりやすいと言われます。

これは、私達の衣類などとも同じ理由ですね。

さらに要注意は、サマーカットにしている犬です。

人の目線からだと、被毛を刈り上げると「夏仕様」になり涼しげかもしれません。

でも、犬の被毛は無駄にあるわけではありません。

被毛の中に空気を含んで、冬は暖かく、夏は涼しく保つ役割があるのです。

犬の被毛は、直射日光によるダメージを防ぎ、外気温の直接の影響を受けないように体を守っているのです。

短くカットするだけなら良いですが、丸刈りにしてしまうと、皮膚が直射日光を受け、体温の上昇を防ぐことができなくなります。

バリカンで丸刈りにしてしまった後に、被毛が生えない可能性もありますので、どうぞ気を付けて下さい。

熱中症が発症しやすい環境条件

熱中症の発生の危険が高いのは、梅雨の晴れ間や梅雨明けしてすぐの頃と言われます。

その理由は、暑熱馴化(しょねつじゅんか)にあります。

動物には、季節が変わって外気温が変化しても、その環境に体を適応させる能力が元々そなわっています。

暑い季節は、皮膚の血流を増やして熱の放散を早い段階から始め、体温上昇をさせないようにします。

これが暑熱馴化(しょねつじゅんか)です。

でも体調の切り替えはすぐにできるものではなく、季節の変わり目から、完全に切り替えが終わるまでに60日ほどかかるそうです。

まだ切り替えが終了しないうちに、急激に気温が変化すると、体温調整がスムーズにいかず熱中症になりやすいのです。

反対に、寒い季節には、寒冷馴化(かんれいじゅんか)が起こります。

これは、寒くなるにつれて体内の熱量が増加し、低体温にならないように適応する能力です。

熱中症発生の目安となる気候

《目安となる環境》

気温22℃以上 湿度60%以上

近年の温暖化の中では、この環境はすでに春の時点で見られます。

地面からの照り返し、風の有無によっても条件は異なりますが、熱中症は、天気の良い春先からすでに用心する必要があると言えます。

車内

熱中症の発生で、もっとも多いのは、車内に犬を残したまま待たせている状況です。

先述したZIPPEI達7匹も、この状況で命を落としました。

飼い主は、エアコンを付けていたと主張していましたが、発見時になぜかエアコンは付いていなかったようです。

犬達は、みんなケージに入れられて車内に置かれていました。

また、同様に、過去にSNSで炎上したチワワ6匹の熱中症による死亡も、やはり車内に残されていて起こりました。

車内の温度変化については、JAFが実験した次のようなデータがあります。

各部測定箇所別/ピーク時の温度と時間

  1. ダッシュボード付近  ・・・・・・・・   70.8 ℃(時間:11時50分頃)
  2. 車内温度(運転席の顔付近) ・・・・・・・・    48.7℃(時間:14時10分頃)
  3. 測定日の外気温 ・・・・・・・・  23.3 ℃(時間:13時40分頃)
  4. フロントガラス付近 ・・・・・・・・  57.7℃(時間:11時50分頃)

この日は最高気温が23℃と比較的過ごし易い1日でした。しかし、車内温度は50℃近くまで上昇し、車内に置いた一部の缶入り炭酸飲料が破裂しました。

出典元:JAF https://jaf.or.jp/common/safety-drive/car-learning/user-test/temperature/spring

 

JAFによると、車内温度はたった10分でも10度上昇するそうです。

また、日なたでは、春先と真夏で日射量に変わりはないとのことです。

そして、仮にエアコンが入っていたとしても、犬がいる場所にそれが十分届いているかどうかは定かではありません。

このことは、たとえ人も一緒に乗っているエアコンの効いている車内でも、犬だけが熱中症を発症してしまうこともあることを示しています。

犬を車に乗せる時は、人の体感だけで安心せず、犬のいる場所の温度がどうなっているかについて、くれぐれも注意してください。

室内

犬を室内で留守番させる時も、熱中症の危険はあります。

ケージのある場所に日が当たっていて、犬が自分で移動できない場合、たとえエアコンが入っていても犬のいる環境は高温になります。

留守番中に、エアコンを付けていない家もあるようですが、閉め切った部屋の中は人が想像する以上に室温が上がります。

昔なら、窓を少し開けておけば涼しい風が入ったかもしれません。

でも、最近の環境では、防犯の点からも気候の点からも難しいと思います。

人の留守中に犬は自分でどうすることもできず、逃げ場もありません。

そのような想定でしっかりと留守中の環境を整えて下さい。

屋外

犬は、人より地面に近い場所にいるため、地面からの照り返しもかなり強く受けます。

炎天下では、レジャーや散歩などは避けた方が安全です。

焼けた地面の上では、熱中症だけでなく、肉球の火傷を起こしてしまう危険もあります。

屋外に繋いでいる犬は、室内が無理でもせめて玄関先など、直射日光を避けられる涼しい場所に移動してあげてもらえることを切に願います。

近年の気候は、昔とは大きく違い、犬の外飼いは過酷です。

スポンサーリンク

初期症状を早期発見することがカギ

熱中症の判断は、外的条件に左右されない直腸温の確認が必要になります。

熱中症になると、犬の直腸温(深部体温)41℃以上になります。

犬の平熱は、37.9℃~39.9℃です。

それを越える場合、発熱を伴う病気が他にないならば、熱中症の可能性が大きいです。

体温を下げようとして、犬はしきりにパンティングし、呼吸が荒くなります。

パンティングで水分を大量に蒸泄させるので、体は脱水になっていきます。

この状態は、まだ初期症状です。

この時点で、体を冷やして体温を下げ水分を補給するという対処が必要です。

初期症状を見逃し、進行してしまうと、次第に体内を巡る血液の循環量が不足します。

そして脳が酸欠状態になって、意識障害などの症状が現れます。

重症化した熱中症で救命できるのは約半数

症状が進行すると、激しいパンティングに加えて流延(よだれ)・嘔吐・下痢などの症状も見られるようになります。

高体温になって消化器などの臓器の機能が低下していくからです。

そして、このような症状は、すでに熱中症の初期を過ぎているサインです。

脳の虚血によって意識が混濁し、反応が鈍くなり、完全な意識消失・電解質の異常による痙攣発作などの症状が起こります。

このような症状が現れる時には、かなり重症化しています。

人の医療では、救急車で搬入されてくるのはこの段階が多いかもしれません。

人も初期には異常が起こっていることに気づきにくいのです。

もっと進行すると、吐血・下血・血尿・目の充血・口腔の紫斑などの症状が見られるようになります。

これは、DIC(播種性血管内凝固症候群)の兆候で、生命の危険を生じています。

熱中症で動物病院に搬入される犬の死亡率=約50%

熱中症は、進行も早く、時間勝負とも言える、全く軽視できない救急疾患です。

重篤な合併症には、横紋筋融解症、急性腎障害、急性呼吸窮迫症候群、そして最終的には敗血症および播種性血管内凝固が含まれる。犬の最も一般的な臨床徴候としては、急性虚脱、頻呼吸、自発的出血、ショックサイン、精神異常、例えばうつ病、方向転換またはせん妄、発作、昏睡および昏睡が挙げられる。早期の適切な体内冷却および集中的な支持療法にもかかわらず、重度の炎症性および止血性障害を改善するための特定の治療法がないため、死亡率は約50%であり、ヒトの熱中症患者のそれと同様である。

出典元:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29435477

 

 それぞれ54例のうち28例および54例に診断された播種性の血管内凝固(P = 0.013)および急性腎不全(P = .008)が死の危険因子であった。 全体の死亡率は50%であった。入院時の低血糖(<47mg / dL、P = 0.003)、延長PT(> 18秒、P = 0.05)、およびaPTT(> 30秒、P <.001)は死亡と関連していた。24時間後の血清クレアチニン> 1.5mg / dL(P = .003)、遅延入院(> 90分、P = .032)、発作(P = .02)、および肥満(P = .04)もまた死の危険因子であった。犬の熱中症は、適切な治療にもかかわらず、深刻な合併症および高い死亡率をもたらす。

出典元:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16496921

上記の資料より、発症して90分以上を経過してから処置をしても救命率は下がるということがわかります。

犬の命を救うには、熱中症の症状に気づいた時点で迷わず、一刻も早く病院に連れて行って下さい。

後遺症

重症の熱中症では、熱中症そのものから回復できたとしても、後遺症が残る可能性があります。

一度、臓器に組織の壊死が起こった場合、元には戻らないものもあるからです。

例えば、腎機能は、一度失えば完全に回復することが難しく、その後も慢性疾患として抱えていかなければならなくなることがあります。

脳の損傷があれば、麻痺などの後遺症が残るかもしれません。

体温調節機能がその後もうまくいかなくなり、熱中症を起こしやすくなるということもあります。

スポンサーリンク

まとめ

私が救急で遭遇した熱中症の患者さんは、屋外より室温の高い閉ざされた屋内で仕事をしていた人、普通に家にいた人が多い印象でした。

本人は重症化するまで自覚がないものの、血液検査では電解質などの数値がかなり悪くなっている、急性腎不全などを起こしているパターンです。

まして、犬は体調不良を訴えることができないので、もっと気づきにくいかもしれません。

熱中症は、あっという間に重症化します。

どうぞ十分に注意してあげて下さい。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。

 

コメント

テキストのコピーはできません。