私の愛犬はてんかんですが、発症してから長期に渡り薬を欠かしたことはありません。
そして、体を作っているのは毎日の食事であり、当然脳も影響を受けると考え、犬のてんかんに良い栄養や食事のレシピも調べました。
あまり知られていませんが、人のてんかんには薬物と並行する食事療法があります。
その内容と犬のてんかんにも応用可能なのかなど、私が得たことを共有したいと思います。
犬のてんかんの治療の基本は薬
犬のてんかんの治療の基本は薬です。
てんかんは、発作を起こさない、または起こす回数を最小限に減らすように予防することが治療の目的です。
その為には、発作のない普段からも薬を継続していかなくてはなりません。
てんかん発作が起こらないからと言って、もう治ったとみなして薬を勝手に中断するのはもっとも危険なことです。
しかし薬というものは、使用方法を間違うと毒にもなる物質なので、長期にわたり飲ませれば、当然副作用の心配もあります。
だからこそ、副作用を早期発見し、薬の量が体に合っているかを確認する為には、定期的な通院と検査が必要になるのです。
【てんかんの参考記事】
てんかん発作を起こす原因に脳腫瘍などの病気がある場合は、その治療を中心に行いますが、原因不明の特発性てんかんについては、発作のコントロールを一生続けていくことが治療です。
人のてんかんの食事療法にはケトン食療法がある
人のてんかんの治療も、基本は薬です。
何種かの薬の組み合わせをきちんと内服することによって、3分の2のてんかんは発作を抑えることが可能と言われています。
しかし、残り3分の1は、発作のコントロールが困難な難治性てんかんと呼ばれるものです。
この難治性てんかんの患者さんで、主に小児を対象にした治療として、てんかんの食事療法「ケトン食療法」が行われることがあります。
この内容は、低糖質、高脂肪の食事療法です。
もちろん、家で勝手に行うのではありません。
これは治療方法の1つであって、医師、栄養士の管理下で、それぞれの栄養素の比率を一定に計算したレシピと、特殊な治療用ミルクを併用する食事療法です。
この食事療法は、脂質が分解されてできるケトン体が、脳の神経細胞に作用して抗けいれん効果が得られるというものです。
この食事療法を開始して、1ヶ月くらいから効果があると言われています。
この食事療法は2年ほどに渡って行い、その後は段階的に元に戻していくようです。
*そもそも、これで改善するてんかんは、グルタミン酸トランスポーター1(GLUT1)欠損症候群という先天的な代謝異常が関与しているとされます。
人のてんかんのケトン食療法は海外で長い歴史を持つ
人のてんかんに対するケトン食療法は、海外では早期に導入されていたようで、小児科専門病院にはケトン食専門外来というものもあるそうです。
歴史も長く、1921年に遡ってすでに開発されていた食事療法で、アメリカでは1995年以降に急速に広まった経緯があります。
薬の治療効果が得られない難治性てんかんの約半数は、この食事療法で発作が起こる頻度が減少したとも言われています。
*この食事療法に修正を加えた修正アトキンス食療法という食事療法もあり、こちらはアメリカで成人の肥満治療に開発されたアトキンス食という食事療法を元に、成人のてんかん食事療法にアレンジしたものです。
アトキンス食とは、アメリカのアトキンス氏が提唱した低糖質食のことで、体重減少、すなわちダイエットを目的とする食事療法でした。
一方てんかんの治療に用いるのは、このアトキンス食の方法に修正を加えた修正アトキンス食療法で、ケトン食とほぼ同等のてんかん発作に対する効果を期待します。
ケトン食の食事療法は、日本では、まだ広く浸透しているわけではありません。
しかし、2016年より、このケトン食療法はてんかんの食事療法として厚労省に健康保険適応と認可されました。
つまり、食事療法がてんかん治療の1つとして、公的な保険制度上でも認められました。
(11) てんかん食とは、難治性てんかん(外傷性のものを含む。)の患者に対し、グルコースに代わりケトン体を熱量源として供給することを目的に炭水化物量の制限及び脂質量の増加が厳格に行われた治療食をいう。
ただし、グルコーストランスポーター1欠損症又はミトコンドリア脳筋症の患者に対し、治療食として当該食事を提供した場合は、「てんかん食」として取り扱って差し支えない。
出典元 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000114858.pdf
ただし、この食事療法の欠点として、極端な栄養素の偏りが出現する可能性があります。
そのために低血糖や発育障害などの副作用のリスクも高く、専門医の指導下でないと難しい食事療法です。
人のてんかん食事療法は犬にも有効なのか?
脳の栄養になるのは糖質です。
その理屈から、犬のてんかんは、脳に栄養(糖質)を十分に与える食事療法レシピが大事という意見をよく見かけます。
糖質を十分に与える方が良いという意見の中には、犬は人間と違ってこのような食事療法をしてもケトン体は増加しない、人間の食事療法=ケトン食療法はあてはまらないという獣医師のものもありました。
しかし、一方で、糖質をうまくエネルギーに変えることができないことがてんかん発作の要因になるという意見もあります。
糖質を十分に摂っていても発作が制御できないのなら、根本から考え直し、逆の発想で糖質を制限してみるのも価値があるかもしれないとして、ケトン食療法を勧めている意見です。
カギになるのは中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)
ここは少し難しい話になりますができるだけわかりやすく解説します。
食事療法によるケトン体の効果とは、もっと正確に言えば、ケトン体を作っている中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)という脂肪酸です。
MCTを犬に3ヶ月与えたところ、発作頻度が減少するという有用な結果が得られたとの報告もありました。
*MCTD=MCTを含む食事のこと
適切な抗てんかん薬治療にもかかわらず、癲癇を有するヒトおよび犬の約3分の1が発作を経験し続け、てんかんの人または犬の生活の質を向上させる新しい治療戦略の重要性を強調する。
特発性てんかんの慢性的に抗てんかん薬治療を受けた犬で、標準化されたプラセボ飼料とケト化中鎖TAG食餌(MCTD)を比較するために、6ヶ月の無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー食餌試験を計画した。
犬にMCTDまたはプラセボ飼料のいずれかを3ヶ月間飼育した後、それぞれの飼料をさらに3ヶ月間切り替えた。
発作頻度、臨床および実験データを収集し、試験を完了した21匹のイヌについて評価した。犬がMCTDを給餌したときに発作頻度が有意に低かった
少しわかりにくいかもしれませんね。
つまり、ケトン食というてんかん食事療法の効果は、それによって増える中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)という脂肪酸によるものと考えられます。
そして、実験の結果、その脂肪酸の入った食事がてんかん発作を抑えることが証明されました。
ただし、このMCTは、肝臓が悪い場合には体内での処理が追いつかないので、肝性脳症の悪化を招く危険があります。
さらに、糖尿病がありコントロールが悪い時にも、糖尿病の重大な合併症であるケトアシドーシス(血液が極端に酸性に傾いて意識障害などを起こす)を起こす危険があります。
ケトン食は、肝臓の病気や糖尿病がある場合、危険なのです。
犬のてんかんに良いとされる栄養素
ケトン食によるMCT(中鎖脂肪酸トリグリセライド)がてんかんの食事療法の鍵になるということは伝わりましたでしょうか?
しかし人の医療では、脳外科などにおいて、確かにグルコース(糖)を中心とした輸液や、糖をインスリンと組み合わせて使用することがあります。
脳には、糖質が重要な栄養素であるのは間違いないことなのです。
だからこそ、
- 糖質が重要だから糖を補給すべきという意見
- 糖質を制限しケトン食を与えてみるべきという意見
という、両極端の意見に分かれてしまうのでしょう。
何度も言いますが、てんかんの治療の原則は、人も犬も第一は食事療法ではなく、まず薬での発作のコントロールです。
食事療法は、薬では効果がない人(特に小児科)の難治性てんかんを対象にして、限定された医療機関で行われているにすぎません。
その治療方法も、薬を排除して勝手な食事療法をすることはあり得ません。
ここからは私の個人的な見解です。
このように、両極端に意見が分かれている中では、確立したものはないわけで、栄養素が偏らないことを重要視した方が堅実と考えます。
そもそも、獣医師の指導もなく、レシピのサンプルも専門の療法食もない中では、食事療法のレシピ自体、難しいと思います。
人のてんかん食事療法は、厳密に管理された中で薬と併用し、期間も限定で医療機関で行われるのです。
そのマニュアルもない中では、極端な食事療法を考えるより、まずは質のよいフードや食材にこだわり、代謝を良くすることなどに重点を置いた方が良いのではないかと思います。
【安全なフード選びの必要性】
ただ、MCTに代表されるように、やはり脂質は重要な栄養素としてカギを握ります。
青魚に多く含まれるDHAやEPAは、オメガ3と呼ばれ、脳に良い脂肪酸として人のサプリやレシピも定着しています。
炎症やアレルギー、癌細胞を抑制する作用があり、てんかんや認知症を予防する栄養素としても重要なものです。
【認知症とオメガ3の効果について】
オメガ3とオメガ6という脂肪酸のバランスも重要です。
サーモンオイルなどがそのバランスの良いオイルの代表で、簡単にレシピに足すことができますので活用するとよいですよ。
また、ビタミンB6は神経系の伝達に関わるビタミンです。
人間のてんかん発作の治療に、ビタミンB6は大量投与が有効であることがわかっています。
ビタミンB6不足とてんかんの関連はあるとされます。
ビタミンB6は腸内で合成されるビタミンですので、根本的には腸内環境をよくすることが有効かと思われます。
マグネシウムもてんかんとの関連を言われることが多い栄養素ですが、確かにマグネシウム欠乏症の痙攣というものはあります。
しかし低マグネシウム血症がてんかんの原因になることは、実際はほとんどないようです。(出典元http://www.jsvetsci.jp/10_Q&A/v20160708.html)
マグネシウムは一方で、尿管結石との関連がある栄養素なので、このようなミネラルは、サプリで摂りすぎて過剰症を招くより、バランスのよいレシピとして解決した方が安全と思います。
体質改善と代謝促進
てんかんは、薬によって発作のコントロールがうまくいけば、病気であることさえわからないほど安定した日々を送ることが可能です。
しかし、やはり薬が体に負担をかけることは意識しないわけにはいきません。
抗てんかん薬は、肝臓で代謝されるので、肝臓の状態を良好に保つことも大事なことなのです。
飼い主さんの中には、肝臓ケアのサプリメントなどを併用される人もいるようですが、肝臓を強化するようなレシピの食事療法も普段から心がけていくと良いと思います。
その他にも、日常的なケアとして、体に有害物質を蓄積させないということを心がけると、肝臓の負担の軽減になります。
【肝臓の働きと肝臓の病気について】
質の良いフード選びを始めとして、身の回りの添加物や化学物質をできるだけ避け、代謝を促すレシピなどを心がけるようにしたいものです。
また、食物アレルギーや食物不耐性とてんかんとは関わりがあるとも言われます。
アレルギーと腸内環境は関連が深いと言われるので、腸内環境はてんかんにも無関係ではないということになります。
先述したビタミンB6も腸内で合成されるわけで、脳の神経伝達には、間接的に腸内環境が大きく関与していると考えることができます。
このようなことから、てんかんの食事療法については次のようなことがポイントになると考えます。
- 偏りのない栄養バランス
- 腸内環境を良好にすること
- 肝臓を強化して毒素を排出し代謝促進をはかるレシピの工夫
てんかんの犬におすすめレシピ
てんかんのレシピは、腸内や代謝を意識したレシピと言っても、全て手作り食にした方がよいと言っているわけではありません。
フードをベースにして、トッピングのレシピを工夫をすれば良いのではないかと思います。
もちろん、フードの原材料もよく吟味し添加物などをチェックした良質のフードが基本です。
【フードの表示の落とし穴】
代謝促進には水分が大事ですので、トッピングもスープ仕立てのレシピにすると、犬が自分で水をそれほど飲まない場合でも食事で自然に摂らせることができます。
私が作っているレシピと似ているレシピを見つけましたので、ここでレシピをご紹介してみます。
★飼い主ごはんと一緒に作れるデトックス野菜スープのレシピ
【材料】 切り干しだいこん適量・だいこん適量 ・にんじん適量 ・きゃべつ適量 ・干ししいたけ1.0枚 ・なす適量 ・しょうが適量 ・ズッキーニ適量
1.切り干しだいこんと干ししいたけは軽く水洗いする。 材料は一口大に切る。2.干ししいたけをお湯で戻して、いしづきを取る。 (戻し汁も一緒に煮込みました)3.煮込んで灰汁を取って、冷まして完成☆ お好みでとろみをつけても◎
私のレシピは、昆布と干し椎茸でだしを取り、切り干し大根などの野菜も一緒にくたくたに煮込んで、昆布も椎茸も一緒に全てミキサーにかけます。
そして魚を蒸すか焼くかして、骨を取りほぐして乗せます。
トッピングを作り置きで冷凍ストックもできますし、フードとも馴染みやすく水分たっぷりです。
腸内環境も意識しているのでヨーグルトや甘酒、刻んだ納豆なども使います。
肝臓にはゴマも良い食材ですので、このようなものを日替わりでレシピに少し足すのもよいのではないでしょうか?
【大豆の栄養素について】
そして、レシピの仕上げにオメガ3が摂れるサーモンオイルや亜麻仁油、えごま油を垂らすと良いと思います。(カロリーや脂質の蓄積もあるのでごく少量です)
【脂質の過剰摂取について】
ただし、肝臓の強化の為のレシピと、肝臓の疾患がある時のレシピでは、タンパク質やエネルギーの適量などが違います。
もし他の病気がある時には、食事療法をする上で禁止すべきことなど、獣医師に確認して下さい。
SAMe(サミー)という抗酸化作用のある物質でできたサプリメント。
SAMeは、肝臓の機能を改善することが有名です。
まとめ
てんかんは、発作を抑えてうまく病気をコントロールするという考え方をすると良いと思います。
人の難治性てんかんの食事療法は、厚労省で健康保険も認可されるようになり、犬のてんかんの場合も、研究結果などでは食事療法を試す価値はあるのかもしれません。
しかし確立された治療ではないので、指導のない自己流の極端な食事療法は危険と思います。
でも、てんかんの食事療法ではなくとも、食事改善は可能です。
飲み続ける薬は肝臓に負担がかかりますので、肝臓を強化し、毒素の排泄を促すことに重点を置いたレシピの工夫はお勧めです。
そして、てんかんと上手に共存できるよう、腸内環境を整え、良好な栄養状態を維持してあげると良いのではないでしょうか。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
コメント