私の犬もてんかんがありますが、この病気を持っている犬は多いです。
発作で苦しむ姿を決して見慣れることはなく、無力感と命の危険への不安で神経が磨り減る思いになります。
発作には危険な種類のものもあるので、てんかん発作の前兆や症状など把握しておいて普段から対処を考えておきましょう。
今回は、犬のてんかんという病気を理解するための情報を共有したいと思います。
犬のてんかんは脳内の異常な電気的興奮
脳内の神経細胞には、正常時にも微量の電気が規則正しく流れています。
小さなショートを起こすようなことがあるとしても、普通はそれが脳内に広がることはなく部分的なトラブルだけで食い止められています。
でも、てんかんという病気はその働きがうまくいかないために、異常な電気的興奮があるとたちまち周囲の神経回路にまで広がり、これがてんかん発作です。
小さな電気的興奮は、不規則なてんかん発作を繰り返し誘発するようになります。
この発作を症状とした脳の慢性の病気がてんかんという病気です。
てんかんは犬の100頭に1頭ほどの割合にあると考えられていて、決して珍しい病気ではありません。
《てんかん発作の種類》
- 全般発作:突然意識がなくなり痙攣(けいれん)する症状
- 部分発作:意識消失はないが運動機能、視覚、聴覚、自律神経などの異常な症状が現れる
一般にてんかん発作と呼ばれる激しいけいれん発作は、全般発作のことを指しています。
てんかんは、発作を起こす原因によっても分類されます。
《原因別による分類》
- 症候性てんかん:脳の異常を引き起こす原因になる明らかな病気が元々あって、それが引き金となるてんかん発作
- 特発性てんかん:特に脳の異常は見当たらないにも関わらず起こるてんかん発作
てんかんの定義は「反復性発作」です。
一度でも発作の症状が見られればそれは十分にてんかんが疑わしいのですが、定義から言えば単発発作だけで診断は付きません。
その発作を繰り返した時に初めててんかんという診断になります。
特発性てんかんの発作の初発年齢は6ヶ月~3歳くらいが多いようです。
症候性てんかんの方は、その原因になる病気が何であるかによります。
極端に若い年齢でてんかん発作を起こした場合、脳の奇形など生まれつきの原因があるということが考えられます。
発作を起こす年齢が高齢になるにつれ、脳腫瘍などができている可能性が高くなってきます。
脳腫瘍や脳炎などの異常があるかどうかを調べるためには、CT検査やMRI検査などの画像検査が必要です。
てんかんは好発犬種もあり、遺伝的素因が関連する病気と考えられています。
《好発犬種》
チワワ・ミニチュアダックス・ヨークシャーテリア・パグ・ブルドッグ・ビーグルなど
好発犬種以外には発生しないというわけではありません。
てんかんの原因になるもの
《てんかんの原因になる病気》
例えば、ジステンバーなどの重大な感染症にかかって何とか救命ができたとしても、ジステンバーのような神経系の感染症は脳に後遺症が残る可能性が高いです。
その後遺症が脳に異常を起こす原因になり、てんかん発作という症状もその1つなのです。
このようにして、原因があって引き起こされるてんかん発作が、症候性てんかんです。
先天的な奇形には、脳脊髄液が流れる経路の奇形や脳室の奇形などがあります。
このような奇形は、脳を守るための脳内の水・脳脊髄液が脳内に過剰に溜まり水頭症を起こしやすいです。
脳内に溜まりすぎた水は脳を圧迫し、そのせいで脳圧が上昇し、その症状としててんかん発作が起こります。
水頭症は、外傷などから起こる後天的なものもありますが、ほとんどは先天性や遺伝性のものです。
近年、チワワやトイプードルなどの小型犬は、体格が小さければ小さいほど重宝され高価に取引される傾向があります。
そのような犬を効率よく量産させて利益を上げたい悪徳繁殖業者は、先天疾患や近親交配による遺伝病のリスクなど考慮することもなく、次々と繁殖させて子犬を産ませます。
そのような乱繁殖で頭蓋骨の形成不全などの発生は増え、本来ならば閉じていなければならない頭蓋骨の一部に穴が開いていたり、隙間があるなどの奇形が多くなります。
そして水頭症や特発性てんかんなどの病気を抱えて生まれてくる犬が多数いるのです。
全ての先天疾患に当てはまるわけではないですが、安易で乱暴でずさんな交配がこのような遺伝子を持った犬を増やしているのは事実です。
そして区別が必要な内科的な病気で、てんかんではないのにてんかん発作に似た痙攣の症状を起こすものがあります。
てんかん発作と症状が似ている、痙攣発作を起こす病気は次のようなものです。
- 低血糖
- 不整脈などの心疾患
- 電解質異常
- ナルコレプシー
- 門脈シャント(肝臓疾患)
- 前庭障害(耳の三半規管)
意識障害や行動障害という症状が共通なので、てんかんとの鑑別診断が必要です。
【参考記事】
てんかんの症状と重要な発作のパターン
下の図は、人間の脳内でのてんかん発作の起こり方を説明したものですが、犬のてんかんも原理は同じです。
参考にしてみて下さい。
♦部分発作
部分発作は、脳の一部に異常な電気的興奮が起きている状態です。
その部分の神経指令に関連した体の部分に症状が現れます。
つまりその脳神経と連動している運動・視覚・聴覚などの異常が症状として起こります。
《部分発作の症状の例》
- 足の片側だけが痙攣する
- 無意味な同じ動作を繰り返す
- 何か噛んでいるような意味のない口の動きを続ける
- 空中に飛ぶ虫(実際には飛んでいない)を追うしぐさをする
- 大量のよだれなどの症状
- 瞳孔が開いていて意識がなく呼んでも反応しない
意識障害がある場合とない場合があり、この発作から次第に全身に広がって全般発作に発展していくというパターンもあります。
♦全般発作
大抵はそれまで特に何の症状もなかったのに突然手足を突っ張らせて横転し、のけぞり全身が痙攣して手足をばたつかせ口から泡を吹くというような激しい発作を起こします。
急にバタンと音がして振り返ると犬が倒れて痙攣していた、というように、いきなりの発作の状況を表現する飼い主さんも多いです。
しかし、発作の前兆として
- 何となく落ち着きがなく不安そうにしている
- 嘔吐や震えなど具合が悪そうにしている
などの症状が見られることもあり、慣れた飼い主さんになるとその前兆から発作を予測できることもあります。
この時、目は開いていますが、瞳孔は散大して意識はなく、便失禁や尿失禁などの症状を伴い、痙攣しながら転がって周囲の障害物にぶつかることがあるので怪我をする危険もあります。
発作後は、しばらくは意識が朦朧として睡眠に移行していくパターンと、ケロッと通常の状態に戻るパターンがあります。
症状がなくなり通常の様子に戻っても、けいれんを起こした後の脳は実はかなり疲労しているので、ぐったりして発熱することもあります。
♦重責発作
てんかんの全般発作の症状も、ほとんどが2~3分以内で治まります。
- 治まりきれず5分以上続く発作
- 発作が終わる前に次の発作がたたみかけるように続けて起こる
以上の2つをてんかん重責発作と呼び、重大な発作です。
重責発作になると、体温は急上昇して酸素の消費量が増加し、その為に不整脈や脳の虚血に陥り、脳神経細胞の壊死などが起こって死に至る危険が大きくなります。
♦群発発作
5分以内に全般発作が治まったとしても、24時間以内に同様の発作が2回以上起こるものを群発発作と呼びます。
群発発作の回数が多くなることは危険です。
《重要!》
- 重責発作が30分以上続く
- 群発発作が24時間以内に10回以上起こる
という2つのパターンの発作は脳へのダメージが大きく、死に至る、あるいは救命できても後遺症を残す可能性が高い。
このような発作の症状は緊急治療を要します。
一般的にてんかん発作の症状は、
- 運動後で疲労している時
- 安静時
に起こりやすいとされています。
また、気圧の変化の影響や、その犬にとって発作を誘発しやすい条件などもあります。
- 雷や花火などの大きな音
- チャイム
- 台風
- テレビの映像の光
このようなきっかけで症状が出現することもあるので、リスクと思われるものはできるだけ避けてあげることが望ましいです。
私の犬は、今は薬でコントロールできていますが、気圧や気温の変化がリスクになるようでしたのでそれは十分に注意しています。
てんかん発作時にどのように対応すれば良いか?
てんかんの症状を観察し記録を取っておくことは、てんかんの診断や発作のタイプを判断するのにとても役立ちます。
てんかんの治療では、発作のタイプを知りそれをコントロールするということが重要なのです。
全般発作のような大きな発作が起こらない限り、てんかんそのものに気づきにくいかもしれませんが、何となく行動がおかしいとひっかかることがポイントであったりします。
変な癖やしぐさが時々あると感じていたことが、後に脳の症状であったと気づくこともあります。
私の犬も最初はそんな症状から始まりました。
ささいなことであってもその時点で獣医師に相談しておくと、本格的な全般発作を起こした時の診断の参考にもなります。
大きな発作を起こした時、名前を呼んで意識があるかどうかを確認してみるのは必要ですが、発作中に大声で呼んで身体をゆすったり触ったりするのは刺激になるので避けて下さい。
そのような刺激で発作が激しく誘発されてしまう可能性があるからです。
抑えつけて痙攣を止めようとしたりするのも危ないです。
人のてんかん発作でもいまだに間違った解釈をされがちですが、舌を噛まないように口の中に何か物を入れたりするのは窒息の原因になったり、口の中を怪我したりして危険です。
ガーゼを巻いたスプーンを口に入れて噛ませておくというような処置が正しいと誤解されていることもあります。
それは危険なので、てんかん発作を起こしている人の救急処置で現在そのようなことはしません。
発作時は、犬の周辺にある危険な物をよけて安全なスペースを広く確保し、ぶつかって怪我をすることのないようにして下さい。
そして、刺激になる音や光を遮断します。
テレビなどを消し、部屋の照明も明々としていたら落としてあげて下さい。
発作時に使う鎮静作用のある屯用の坐薬などがあれば速やかに入れて下さい。
ただ、発作時は体動がある上に失禁などもあるので坐薬を入れるのが難しかったりします。
無理だったら抑えつけるなどはせずに少し落ち着くまで待って見守った方が安全です。
【参考記事】
犬のてんかん発作時の座薬の入れ方・タイミング・ 副作用について
群発発作や重責発作は命に関わることがあるので、連れていける距離や状況であれば医療機関に連絡を取り搬送して下さい。
この発作は救急対象の重大な症状です。
そして、できたらで良いので発作の様子を動画撮影して下さい。
発作の間は、怪我がないように危険なものをよけておさまるまで見守るくらいしかできずに手を出せません。
その間に動画が撮れるようなら、スマホなどで短時間でもいいので撮ってみて下さい。
心情的には難しいことなので、もし冷静に撮影ができるようであればという話です。
動画を残しておけば後で獣医師にそれを判断してもらうことができ、診断や治療には役立ちます。
《てんかん発作の時の観察事項》
- 発作の時間・始まって終わるまでに何分くらいを要したか
- 発作がどこからどのように始まり、どのように終わったか
- 発作が起きた時は何をしていて、何かきっかけになることがあったか
- 意識の変化はどうだったか
- 発作の前兆、または最近、何か変わった行動が見られることがあったか
- 発作以外の症状にはどのようなものがあるか
- 発作後の様子
てんかんの犬の飼い主さんは、てんかん観察ノートのようなものを作っておくことをお勧めします。
治療の内容や症状、発作の様子などを記録しておくと、後々に発作の前兆や背景がわかり何かと重宝します。
うちも治療が軌道に乗るまでいろいろなことがあり、記録ノートを読み返すと当時のことを思い出します。
私もてんかんの犬の飼い主さんの不安はとてもよくわかります。
まとめ
犬のてんかんの症状は発作という形で表れます。
発作には気づきにくいものから深刻なものまでありますが、てんかん発作が起こるたびに脳はダメージを受け、そのダメージが次の発作を誘発すると考えられています。
発作をコントロールしいかに症状を起こさず脳を守るかということがてんかんの治療です。
症状を理解し適切な治療を受けさせてあげて下さい。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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