近年は犬も長寿となり、認知症や介護も課題のひとつになってきました。
犬の認知症は単なる老化現象と思われていることも多いです。
でもそれだけではなく、中には人のアルツハイマー病に似た進行性の病気もあるとわかって来たようです。
人間で考えた場合、認知症は進行を遅らせることはできても、すでに末期の状態からの改善は難しいのが現実です。
今回は犬の認知症の改善の可能性や余命について、情報共有したいと思います。
犬の認知症の進行段階と症状
認知症は、脳の変性により引き起こされる症候群です。
犬の脳にもアルツハイマー病の人間と同様の異常タンパクが沈着することがわかり、犬にも人のアルツハイマー病と同じ病気があると考えられるようになってきました。(参考 https://link.springer.com/article/10.1007/s11357-021-00422-1)
認知症ってそもそもアルツハイマーのことではないの?と思いますよね。
認知症を起こす原因はいくつかあるのですが、アルツハイマー病もその原因の1つなのです。
人の認知症の原因としてはこれがもっとも多く、進行性の病気です。
同様に、犬にもアルツハイマー病があり、これによって認知症が進行すると考えられています。
《犬の認知症の初期症状》
- ボーっとしていて表情が乏しい
- 名前を呼んでも反応しない
- 周囲に対する興味の低下
- 粗相する
- しつけを忘れる
- 他の犬や人に対する攻撃性が出てくる
認知症の初期は、上記の症状が少しずつ現れるようになります。
ただ認知症を発症する犬は高齢なので、この程度の症状なら年齢の為ととらえられがちかもしれませんよね。
アルツハイマー病について少し説明しますね。
最近は広く知られるようになってきましたが、脳には、アミロイドβという異常蛋白質が溜まりがちになります。
その物質が老人斑と呼ばれる「シミ」のようなものを脳に沈着させ、脳が変性を起こすことで認知機能に障害が現れます。
脳にシミができるとかゴミが溜まるという話は、認知症を特集した番組などでもよく言われるようになりました。
おそらくどこかで聞いたという方もいらっしゃるでしょう。
このシミの沈着が、脳のどの部分に多く溜まっているか?によって、現れる症状も変わってくるのです。
ただ、必ずしもアミロイドβだけが原因ではないという説もあります。
下の表は人のアルツハイマー型認知症の進行度の分類です。
進行レベルごとに3段階に分けられているので、参考にご覧下さい。(厳密には7段階あり)
参考:人のアルツハイマー病の進行の病期分類
《第1病期・初期》運動機能は保たれている。物忘れ、抑うつ症状、物取られ妄想(誰かが家に入ってきてお金を盗まれているなど)などが出現し、自発性が低下する。うつ病と間違われることもある。画像上で脳の萎縮は軽度。
《第2病期・中期》記憶障害、見当識障害、失認(対象や状況を認識できない)、失行(これまで当たり前にしていた簡単な行為ができない)、失語(言語の使用ができない)などの症状が出現する。画像上で明らかな脳の萎縮が見られる。
《第3病期・後期(末期)》高度の認知機能障害によりコミュニケーションがとれない。人格変化。運動機能が低下し歩行障害などが現れて寝たきりになる。画像上では脳の萎縮が高度に認められる。
犬の認知症も、進行すると症状が次第に目立つようになり、夜泣きや徘徊などの症状が表れてきます。
ここまで来るとすでに末期的な症状と考えられます。
犬の認知症の末期症状と余命
犬の認知症は高年齢の犬に発症する病気ですので、その余命は、認知症そのものの進行と、元々の体の健康状態の両方が影響します。
認知症は、いかにも老化の特徴のような症状から始まり、ゆっくりと進行し、犬にストレスがかかった時などに一気に進行が早まったりもします。
認知症の進行による末期症状
認知症の症状で、睡眠のリズムの崩れによる昼夜逆転は有名です。
昼間は熟睡し夜になると夜泣きするという、対応がかなり難しい状態です。
徘徊も進行した認知症の末期的症状です。
認知症の犬の行動で、部屋の隅などに突き当たると、後ずさって向きを変えることができなくなるというものがあり、かなり特徴的です。
そして、狭いところや部屋の隅にはまりこんで動けなくなる、ということも起こりがちです。
家の中で行方がわからなくなって飼い主さんが探したら、頭を突っ込んだまま動けずじっとしている姿で見つけられることも多くなります。
徘徊はやがて病気の進行と共に同じ場所で同じ方向にぐるぐる回る旋回と呼ばれる末期症状になります。
旋回はもう自分ではなかなか止められない状態です。
感情を司る部分に病変がある場合は性格変化なども現れやすいです。
温和な犬が攻撃的になって咬むなど、それまでとまるで変わってしまうことも考えられます。
このような行動の変化に戸惑う飼い主さんも多いと思われますが、脳そのものに病気が発生したからであって犬が悪いのではありません。
そしてしつけで改善できるものではないのです。
認知症の余命
脳の変性は知能や精神症状だけでなく、運動能力も低下させてしまいます。
それが犬の余命を左右することにもなります。
病気が脳全体に広がれば失われる機能も広くなり、四肢を動かせなくなることもあります。
やがて、嚥下(物を飲み込む動作)や心臓の動き、呼吸などの重要な機能も障害されていきます。
そうすると食べることも飲むこともできず、呼吸がうまくできない、心不全、肺炎など命の危険のリスクも高くなります。
認知症の末期は寝たきりの状態に陥りやすく余命にも影響します。
人のアルツハイマー病の余命は平均して発症後8年と言われています。
もちろん個人差はあります。
犬の場合、認知症を発症する時期は、犬種によってはすでに平均寿命に達している可能性の年齢です。
認知症にならなくても、元々の余命がそれほど残されていないのが現実です。
犬の場合は個体差があるとしても、発症後半年ほどで急速に悪くなり亡くなることもあるようです。
認知症の末期からの病状の改善は無理?
認知症が進行した末期になると症状の著しい改善は望めず、余命もそれほど長くないとされています。
しかし、認知症の初期のうちに、不足しがちな栄養素を意識して食事を改善したり、生活習慣を改善したりすることは、認知症の進行予防に効果的です。
犬の認知症の治療薬として、人のアルツハイマー病の治療薬も適用されるようです。
複数の種類の薬剤とサプリメントを組み合わせて使用されています。
治療薬を使用することで、認知症の犬の70%に改善があったという研究結果も出ているそうなので、病状が進行している場合でも決して無駄ではないかもしれません。
進行した認知症の症状を改善させるには
認知症は、治療しても「完治」させることはできません。
せめて進行を食い止め、症状を改善し、少しでも生活の質を維持するのみです。
進行した認知症は、介護の工夫で状況の改善も大きいと思われます。
- DHA/EPAを意識した食事、またはサプリメントを補うなどの栄養の改善。
- 食事時間がわからなくなりたびたび欲しがる時は、少量ずつ回数を増やすなど食事のタイミングを改善。
- 昼夜逆転にならないように、昼間はできるだけ起こし睡眠を改善する。
- 名前を呼び、話しかける。マッサージなどで体に優しく触れたり撫でたりしながら、コミュニケーションの時間を増やす。
- 体に負担がかからないよう、散歩時間を改善。一回の時間を短く回数を増やす方が望ましい。また、コースを時々変更して新しい道を体験させる。
- 歩けなくなっても補助具やカートを使って外に連れ出し、新鮮な刺激を受けられるようにする。
- 視覚や聴覚の衰えにより恐怖心を持ちやすい為、いきなり触らない。触る前に声掛けや合図をするなど触り方を改善する。
- くつろげる環境づくり、お漏らし対策、トイレの場所などを改善する。
エンドレスケージ
徘徊や旋回の症状があるならば、思う存分歩き回ることのできる安全なスペースを作ってあげるとよいです。
程よく疲れて眠り、夜泣き症状も改善する効果があるようです。
ぶつかっても衝撃を吸収してくれるような、クッション性のあるお風呂用マットなどを繋ぎ合わせ、高さのある円形の囲い「エンドレスケージ」を作ります。
その外側をサークルで囲うとエンドレスケージの強度が改善します。
そして角があるとはまりこんでしまうので、丸い形にしてあげましょう。
床は滑り止めにマットを敷いてあげると安定感も改善できます。
小型犬に子供用ビニールプールを代用している飼い主さんもたくさんいるようですが、小型犬なら下のようなケージも活用できると思います。
また、徘徊専用に改善された用品もあります。
形状が柔軟なので部屋や目的に合わせ変更ができ、安心感がありますよ。
このように安全に囲われたエンドレスケージの中なら、犬は自由に徘徊でき、飼い主さん側の介護負担の改善にもなります。
まとめ
犬の認知症は進行すると立てなくなったり寝たきりになることもあり、末期では呼吸や心臓などの重要な働きが低下して余命を左右します。
しかし全く改善できないわけではなく、認知症の進行を食い止める薬や環境、栄養、犬への対応の方法や適切な介護ケアなどで改善できることもあります。
たとえ飼い主さんを認識できなくなったとしても、一緒に過ごす時間は犬にとっては安心感ややすらぎでです。
病気を改善することはできなくても生活の質を改善することは、どの段階であっても可能なのです。
最後まで、しっかり向き合ってあげてください。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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