子犬のしつけに「仰向け固め」と呼ばれるものがあります。
あまり耳慣れない呼び方かもしれません。
それは、仰向けの子犬のおなかを撫でて甘えさせる、というものではありません。
そのしつけは犬を服従させるために必要という理由で行われてきたしつけです。
「仰向け固め」がどのようなものであり子犬にどのように影響するのか、今回は考察してみたいと思います。
子犬にとって仰向け体勢は何を意味しているか
犬にとって仰向けの姿勢はとても無防備になる姿勢です。
お腹はとても柔らかくそこには大事な内臓があるため、体の中では大変弱い部分です。
そのような理由から、犬は警戒し仰向けになるような姿勢はあまり取りたがらないものです。
犬が仰向けになるということは、自分の弱点をさらけ出しているようなものです。
例えば犬同士の喧嘩の時などに、自分の方が負けということを認めた犬の方が仰向け姿勢をして見せることがあり、これは相手に対して白旗を振るサインです。
「あなたにはかないませんのでもう抵抗はしません」という、相手に対する服従を意味しています。
人間と暮らしている犬が飼い主の前で仰向けになるのは、飼い主との信頼関係の中でリラックスできている状態を意味します。
仰向けになって、飼い主さんに「撫でて欲しい」とアピールをすることもありますよね。
犬の仰向け姿勢は、少なくとも争うモードではないと表現している姿勢です。
「仰向け固め」の方法と目的
「仰向け固め」の基本のスタイルは、まず人間が足を伸ばした状態で床に座り、子犬の頭を人間側にして人間の太ももの間に挟みます。
小さな子犬なら背中から抱えてそのまま簡単に仰向けにできます。
少し大きめの子犬などでいきなり仰向けにするのが難しい場合は、伏せの姿勢から少しずつ仰向けにひっくり返します。
しかしこの方法について調べてみると、実に様々な解釈がなされていることがわかります。
子犬が抵抗して暴れたら、片手で前足を抑え込んでバランスを奪い、起き上がる動作ができないようにすると言うのです。
子犬の体が大きくて暴れる力が強ければ、二人がかりでもう一人の人間が犬の足を抑えるように指導するドッグトレーナーもいるようです。
つまり子犬が嫌がって抵抗しても無理やり強引に仰向け固めにするということのようです。
子犬が噛もうとしたら下あごを抑えて口が開かないようにしマズルをつかみます。
このようにして仰向け固めにし、お腹や足先、尻尾の先まで触ることを日々繰り返します。
仰向け固めの目的は、このようにして主従関係を認識させるしつけなのです。
いきなり仰向け固めされると子犬は驚いて抵抗もします。
それを人間の前では無駄なことであると認識させるのです。
こうして飼い主に対し服従性を育てるという意味を持って行われます。
「仰向け固め」に対する肯定論と否定論
子犬にこの仰向け固めのしつけをすることには、賛否両論あります。
まず賛成の根拠となっているメリットとされているものから挙げてみます。
- 主従関係をはっきり認識させることができる。
- 子犬の頃から身体中を触らせることに慣れどこを触っても怒らない犬になる。
- 容易に仰向けにできるようになり、腹部などの隠れた部位の病気の早期発見がしやすくなる。
- 病院での診察や爪切りなどもスムーズになる。
次に反対として指摘されているデメリットを挙げてみます。
- 無理やり仰向けにされ抑えつけられることにより、精神的に不安を感じるようになる。
- 子犬に恐怖心を植え付けるしつけでは攻撃性が育っていく。
- 子犬に下位のものは力で抑えつけることを刷り込むため、子犬も成長したら自分より弱いものに対し(人間の子供など)同じように強引で乱暴な対応をしかねない。
- 犬は人間との関係の中で上下を意識しない。アルファシンドロームもないというのが最近の見解である。このようなしつけはすでに古く、理不尽な暴力でしかなく、自己防衛や攻撃性を身に付けさせるだけで逆効果であり、もうおこなうべきではない。
子犬は自分から仰向けにもなれるもの
一昔前なら正しいとされていたしつけの方法も、時代の流れの中で変化しています。
仰向け固めも過去には正しいと広く信じられていたしつけ方法だったのでしょう。
最近では、このような種類のしつけはその後の子犬の性格形成に悪影響があり逆効果の方が大きいとしてしつけの主流ではなくなってきました。
もちろん嫌がることなくすんなり仰向けになって何の抵抗もしない子犬もいるでしょう。
一方で、恐怖や警戒心が強く怯えて、仰向けどころか抱き上げられることも抵抗する子犬もいるようです。
その子犬が仰向け固めのしつけをそれほど怖がらず、無理に抑えつけられることもなく自分で仰向けの姿勢になるなら問題ないかもしれません。
容易に仰向けになって身体中のどこを触られても平気になるというのは、その後も何かと便利であり、病気の早期発見にもつながるのは良いことです。
病院・ブラッシング・爪切り等のケアなど、体を触る機会は多く、触られることを抵抗なく受け入れられる犬に育てるということは間違っていません。
しかし恐怖を押して無理に抑えつけて仰向け固めにすることは疑問が残ります。
メリットもあるかもしれませんが、無理やり仰向け固めにする必要はあるのでしょうか?
この解釈は時代と共に変化しているようで、「仰向けはリラックスできる姿勢であることを教える」という意味に柔軟にしつけをアレンジして実施しているトレーナーもいるようです。
一方、やはりあくまでも「子犬を抑え込んで屈辱感を与え、支配と服従の関係をはっきりさせる」と主張しているトレーナーもいます。
私個人としては、前者の解釈の「仰向けはリラックスできるものとして教える」という目的で取り組むなら理解できます。
無理やり仰向け固めにせずとも、自分でいくらでも仰向けになって飼い主に身を任せる犬になるように信頼関係を育てたらよいのではないでしょうか。
支配と服従などにこだわらなくても、触られることに慣れれば犬はいくらでも仰向けになります。
わざわざ怖い思いをさせて「屈辱感を与える」などは無意味としか思えません。
まとめ
怖がらせても抵抗しても抑え込むこのしつけは子犬に望ましいものでしょうか?
もちろん噛み癖など、早期に矯正の必要がある場合もあるでしょう。
でもしつけの成功は基本的に信頼関係あってのものです。
子犬と飼い主さんとの関係はこれから育てていかなければならないのです。
嫌な思い、怖い思いをさせるのではなく、たくさんの楽しいふれあいの中で子犬が自然と飼い主を慕い信頼して従う関係を作ること、頼れる飼い主になることが大事ではないのかと私は思います。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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