叩くというしつけが及ぼす影響 その方法は子犬に有効か?

子犬のしつけをする時に、言葉がわからないのだから叩く方法で教えなければ覚えないという考え方を持った飼い主さんもいらっしゃいます。

犬のしつけにおいて、子犬を叩く「体罰」のデメリットが大きいことは、近年広く言われるようになりました。

それでも子犬を叩く方法は、しつけを行う上で効果をもたらすのでしょうか?

今回は、体罰による犬のしつけ方法について考えてみたいと思います。

叩くしつけ方法 体罰の歴史的背景について

根底にあるのはドミナンス理論

昔、犬の行動を狼になぞらえて考えられたしつけ方法が主流だった時代がありました。

狼はその群れで「アルファ」と呼ばれるボスが絶対的な存在とされています。

その関係は支配と服従で成り立ち、下位にいる狼は上位にいる狼に服従する、それは犬にも同じことが当てはまるという考え方です。

そして、その関係性は人間と犬の関係でも同様であると考えられ、犬をしつける為には人に犬を絶対服従させることが必要とされてきたのです。

つまり、飼い主という存在は絶対的権力を持ったボスであり、それを犬に教えこむことが必要、人間は犬よりも上位の存在であると犬に認めさせなければならない、という考え方を基本にしたしつけ方法です。

そして、犬は人間と権勢を争いたがる生き物であるので(アルファシンドロームと呼ぶ)、どちらの立場が上か下かの認識を犬に勘違わせると、いくらしつけをしてもいうことを聞かなくなり、問題行動を起こすようになる、と考えられました。

この考え方をドミナンス理論といいます。

飼い主が犬よりも上の位であることを知らしめる為には、犬を叩くような体罰を使ったしつけは正しいしつけ方法としておこなわれてきました。

体罰の方法は、手で叩く、棒などを使って叩く、または蹴る、鼻をはじいて痛みを与える、粗相の後に犬の鼻を床に押し付ける、犬を無理やり仰向けにして抑えつける、マズルを掴んで頭を揺する、首輪で首を締め付ける、などが含まれます。

またそういう罰を与える為に、リードを引くと首にスパイクが食い込んで痛みを与える作りになっているチョークチェーンなどのしつけ道具も存在します。

他にも、人間が上位であることを認めさせる為には、玄関から散歩に出る時は飼い主が先でなければならない、食事も犬より飼い主が先に食べる、などの日常の行動の順位が重要とされます。

また、飼い主が許可を出す前に食事に口をつけたら叩く、犬が食事を食べ始めた時にわざと途中で食べ物を取り上げ、その時に犬が唸ったら服従行為を強要する方法や、人間の目線より高い位置に抱き上げてはいけない、などの方法が推奨されていました。

そして、そのようなしつけはまだ幼い子犬の頃から行う方がよいとされ、むしろ早くからそのようにしつけるべきと言われていました。

褒めるしつけ方法が浸透していく一方で、叩くなど体罰によって支配と服従を教え込む方法は1990年代くらいまでは正当とされていて一般的なものだったようです。

叩く方法 体罰の効果と問題点

叩くような体罰のしつけの方法は子犬にどのような影響を与えるのでしょうか。

効果と問題点を次に挙げてみます。

効果

  • 子犬の自主性に関係なく、犬は苦痛を感じるのが嫌なので、痛みや恐怖の為に命令に従うようになる。
  • 強制力があるので結果が出るのが早い。
  • 母犬も子犬のマズル(鼻)を噛むことがあるので、母犬と同じ方法でしつけができる。(犬と人間では意味が同じにはならないと言われています)

問題点

  • 自己防衛が強くなり攻撃性を高めて成長してしまう確率が高い。
  • 効果が出るのが早い反面、嫌々従っているに過ぎず、しつけの効果は長続きしない。
  • 子犬と飼い主の関係を対立させてしまうことになり、修復が困難になる。
  • 恐怖の為に威嚇行動などの問題が表面化することがなくなるので問題ないように見えるが、人との信頼関係がないために相手やタイミングによって予告なくいきなり攻撃を起こす危険がある。

ハンドシャイ

人間の手で叩くことで痛みや恐怖を与えられた子犬は、人間の手に異常に恐怖を感じるようになり、その現象をハンドシャイと呼びます。

叩くつもりがない時にも、手を子犬の前に出しただけで子犬は構えて身をすくめるようになり、やがて恐怖に耐えられずに、出された手に噛みつくようになります。

あるいは目の前に出されなくても、人間の手が子犬の視界の中で動いただけで、叩かれまいとして先に威嚇するというような過剰な反応を見せることもあります。

人間の手は、本来、叩くことに使われるのではなく、子犬にとっては、自分を撫でてくれたり、ご飯やおやつをくれたりする、優しくて信頼できるものであるはずです。

しかし、その手で叩く、抑えつけるなどの苦痛を与えるしつけを受けていくうちに、子犬の心の中には人の手に対する恐怖が育ってしまい、心の病気と言われるような状態にまでなることもあります。

しつけと虐待が紙一重になる理由

子犬が望ましくないような行動をした時に叩くというのは、嫌悪刺激という方法とも言えますが、嫌悪刺激の使い方はタイミングが難しく、たしなめたい行動の一秒以内に罰を行わなければ、犬は行動との関係性が理解できず無駄なのです。

知識や確実なテクニックもなく、ただ小さな子犬を叩くという行為は、しつけを通り越して虐待となりうるものです。

信じがたいことですが、実際にしつけという名目で、無抵抗な子犬を叩く、殴る、蹴る、壁に叩きつけるなど、ただ苛立ちや欲求不満などの人間の感情を子犬にぶつけているにすぎない人もいるのです。

その結果、子犬が死んでしまったという話は聞くだけで辛く、しかも珍しいことではありません。

もしも運よく命を落とさなかったとしても、小さな子犬の体では、叩くだけでも容易に骨折などするでしょう。

そして何らかの障害を残すなどして、将来的に大きなダメージを負うようなことにもなるのです。

幸いにして体の傷は大きくなくても、心には大きなダメージが残る可能性があり、治療も難しい心の病気を抱えることになるかもしれません。

叩くなどの虐待を受けてきた子犬は人間を信頼できなくなります。

そしてその後の扱い方が難しくなります。

人間のせいでそのようになってしまった犬が、結果的に捨てられてしまう話もまた現実に多いです。

しつけ方法 現在の傾向は

かつては、犬は狼の群れと同様に階級付けがあるとされました。

人間との関係においても、上位と下位をしっかり植え付けて服従させなければならないというしつけ方法が主流だった歴史があったのは事実です。

しかし現在は、すでにその理論自体がアメリカ獣医行動学会から否定されているようです。

「犬は番犬」という位置付けだった昔と違い、近年、犬に求められるものも家族としての位置付けに変化していて、犬と人間がどう関わればよいかいうことが見直されるようになりました。

現在では、その群れというのは実は家族の単位だったという仮定の元に、子犬を導いてしつけるのは親であり、子犬が従っていた関係の主は親であったというように理解されるようになりました。

それを基本として、飼い主も信頼できて頼れる親のような存在として、子犬に様々な規則を教え導くようにしなければならないという考え方のしつけ方法が広まっていったのです。

また、犬には人間と権勢を争うという概念はないとも言われるようになりました。

犬は人間を支配しようと狙っているわけではなく、ただ自分のルールで生活していきたいだけです。

だから人間も、犬とどっちが上位だとかを争うのではなく、元々の犬の本能に基づく行動を理解して、犬の習性に合わせた方法でしつけを行えばよいという考え方です。

具体的に子犬のしつけ方法として推奨されているのは、報酬を使いながら、子犬にとって行動と喜ばしい結果を関連付けることを繰り返し、子犬が自主的にその行動を取るように導く方法です。

しかし、犬の訓練士やトレーナーは統一された資格ではなく、方針もそれぞれです。

今でも、子犬のしつけは支配と服従の関係として解いているトレーナーもいますし、叩く方法を推奨する訓練なども存在しています。

しかし、少なくとも叩くことは効果より弊害の方が大きいことだけははっきりしています。

それがしつけという大義名分の虐待になっていることに誰も気づかなかったら、それはとても危険なことだと思います。

喋ることのできない無力な子犬には、飼い主さんしか頼るものがないのに、その相手が大きな体で大きな手を振り上げて自分を叩くことはどれだけの恐怖と不安でしょうか。

どんなに怖くても痛くてもそこから逃げることさえできません。

しつけを解くものがたくさんありすぎて、どれが正しいのかわからなくなり、叩くことが効果的と信じてしまうこともあるかもしれません。

しかし叩く方法で無理やり屈服させるとか強制するとかは継続性のあるしつけではないと思います。

まとめ

子犬のしつけについては様々な考え方があります。基本が同じでも解釈が違うために方法も違ったものになることもあります。

その中で、叩くような体罰的なしつけが正当とされていた時代があったのも事実です。そしてしつけ方法の主流の交代はあっても、方法は混在しているのが現実のようです。

もしも叩くことが正しいと信じている飼い主さんがいるとしたら、そのような歴史もあったけれど、叩くことはしつけではない、ということに今すぐに気づいて下さい。

それよりも良好な関係の中で、嬉しいことや楽しいことで子犬の自発的な行動を引き出し、望ましい行動に繋げられるように、いかに上手にリードできるかが飼い主さんの腕の見せ所なのではないかと感じます。

しつけは子犬だけが学習するのではありません。飼い主さん側も勉強する必要があります。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。

【おすすめ記事】

子犬が来たら教えたい!しつけはいつから始められる?

犬のしつけ教室と預かり訓練 その違いと選び方について

 


あわせて読みたい記事はこちら


data-matched-content-ui-type="image_card_stacked"