一昔前は、犬が年齢を重ねたことによる老化現象として諦められていた症状も、実は認知症という病気が原因であるという認識が少しずつ広まってきました。
認知症は、どんな犬種にも発症する可能性があります。
しかし、特に好発する犬種の偏りがあることもまた事実のようです。
今回は、認知症の発症年齢やなりやすいとされる犬種について解説したいと思います。
犬の認知症の発症メカニズムは人と共通する
犬も年を取ればその年齢なりに、身体のあらゆる部分に衰えが現れるのは当然のことです。
それは脳の老化にも同じことが当てはまります。
年齢とともに、多少学習能力が鈍くなったとしても、それは自然な老化現象と言えるでしょう。
しかし、年齢の範囲を越えて、脳の変性が極端に進行し、物事を認識できなくなるという機能障害を起こすことがあります。
それによって、行動の変化が著しくなる現象を認知症と呼びます。
人に例えると、認知症を引き起こす原因になる病気はいくつかあります。
特に多いのが「アルツハイマー型認知症」です。
アルツハイマー型認知症の発症には、アミロイドβという異常タンパクの沈着や、必要な脳内物質の減少が関与しているということはわかっていて、現在、治療薬の開発が進められています。
そして、犬の認知症は、人のアルツハイマー型認知症と全く同じではないが、よく似た脳の病変があることがわかっています。
つまり、犬の認知症は、人間でいうアルツハイマーに似た病気によって引き起こされていると考えられます。
犬の認知症は、初期症状はそれほど目立たなかったとしても、慢性的に進行して症状が次第に顕著になっていき、最終的には飼い主さんのことも認識できなくなってしまいます。
認知症の治療は、現時点では確立されたものはなく、進行を食い止めることが目標になります。
認知症の発症リスクが高いとされる年齢
犬は、人間の4~7倍の速さで年齢を重ねていくと言われます。
犬の年齢を人間の年齢に換算する方法は、犬種(大型犬か小型犬か)によっても多少違いがあります。
シニアと呼ばれる年齢になるのは、計算上は大型犬の方が早いとされています。
【犬の年齢の計算方法】
いわゆるシニアという年齢になっても、まだまだ若々しい犬も多いので、いつも見ている飼い主さんにはピンとこないかもしれませんが、犬は大体7歳という年齢を区切りにしてシニアと分類されます。
そして、その年齢以降では、様々な病気の発症リスクも増えて来ます。
認知症を発症する年齢は、小型犬では15歳前後の年齢でもっとも多く、大型犬では10歳前後の年齢でもっとも多いとされています。
しかし、人間にも若年齢の認知症があるように、犬にも発症年齢の固体差があって、早ければ、小型犬では12歳前後の年齢、大型犬では7歳前後の年齢から認知症の症状が出現することもあるようです。
そうは言っても、明らかな異常行動でも現れない限り、飼い主さんは初期症状に気づかないことの方が多いのではないかと思います。
犬が高年齢になってくると、それが認知症の症状であっても、飼い主さんには自然な老化現象と区別するのが難しく、もう年齢が年齢だから仕方ないものと諦めてしまうこともあるのではないでしょうか。
しかし、認知症は、年齢によるものではなく進行性の病気です。
完治することは困難だとしても、認知症という病気を認識し、初期に適切に対応して、病気の進行をできるだけ緩やかなものにすることが、飼い主さんと犬がよりよく暮らしていく為には重要なことです。
愛犬がシニアと呼ばれる年齢になったら、認知症を発症する可能性も念頭において、予防を考えた食習慣の工夫などもしていくようにするとよいのではないかと思います。
犬の認知症には好発犬種がある
認知症の好発犬種は日本犬です。
洋犬の犬種の中では、ヨークシャテリアが多いと言われるようですが、基本的には洋犬犬種自体にあまり発症は多くないとされています。
(参考 https://confit-fs.atlas.jp/customer/acrf35/pdf/Lc2-5.pdf)
もちろん、認知症は犬種が限定される病気ではないので、日本犬全てに発症するということではありません。
しかし、認知症の8割以上が日本犬の犬種という、犬種の偏りを示すデータは存在するようです。
認知症になりやすいとされる犬種
認知症になりやすい犬種は、日本犬の犬種の中でも柴犬がもっとも多いとされ、認知症になった犬の約8割の犬種は日本犬でそのうち3割は柴犬または柴犬ミックスという犬種と言われています。
なりやすい犬種は柴犬だけではなく、紀州犬や甲斐犬、北海道犬などの日本犬と言われる犬種や、それらの犬種の雑種にも発症するようです。
残念ながらここでご紹介できる文献が探せませんでしたが、認知症と日本犬の犬種についての情報ソースは、動物エムイーリサーチセンターの獣医師である内野富弥氏による「畜産新報JVM Vol58 No9 2005年9月号日本犬痴呆の発生状況とコントロールの現況」という論文に書かれているようです。
【参考記事】
認知症になりやすいと考えられる理由は栄養素
日本犬の犬種が認知症のハイリスクである理由は、飼われていた環境、特に食生活ではないかと考えられています。
日本犬の犬種は、遡れば縄文時代から人間と生活をしてきたという古い歴史があります。
日本人の食生活の蛋白源は、昔から魚が中心でした。
そして、人と生活し、人から食事を与えられていた日本の犬種もまた、魚が中心の食生活をしていたことが考えられます。
そのような食習慣の中で、日本人と暮らす日本の犬種の身体は、魚の栄養をうまく利用し代謝することにより確立されて来て、今日があると言えます。
しかし、やがてドッグフードが普及するようになり、ドッグフードの素材には肉が使われているのが一般的です。
長い歴史の中で、米や魚など、日本の食生活に合うように進化してきた日本の犬種の食生活は、ドッグフードが普及しだした頃から急激に変化していくことになります。
その食生活=栄養素の変化が、古くから日本に馴染んできた日本の犬種の認知症発症のリスクに繋がっているのではないかと考えられているのです。
それには、魚から得られる重要な栄養素である、次にあげるような不飽和脂肪酸の関わりが指摘されています。
認知症と関係深い栄養素は不飽和脂肪酸DHA・EPA
人間のサプリメントとしてもその必要性が重要視されているDHA・EPAは、オメガ3系脂肪酸とも呼ばれ、体内で作ることはできない多価不飽和脂肪酸(必須脂肪酸)として重要な脂質です。
これらの脂肪酸は、血液をサラサラにして血栓ができるのを防ぎ、動脈硬化や高血圧など生活習慣病を予防し、脳の働きを活性化するなどの役割があります。
DHA・EPAは、口から摂取され、小腸から肝臓を通って吸収されます。
その後、DHAの方は血流に乗って脳に到達し、神経系細胞の成分としても使われます。
脳には、血液関門という、外界から入り込んで来る毒素など、不要なものをシャットアウトする関門がありますが、DHAはこの関門さえも通過することができる栄養素です。
DHAは記憶力や学習能力を高めて脳を活性化し、人のアルツハイマー病においても重要な成分であることが注目されています。
最近は、サプリメントなども多く出ていますが、このDHA・EPAという不飽和脂肪酸(必須脂肪酸)は、青魚に多く含まれている栄養素です。
そして、認知症の犬の場合、そうでない犬と比較して、血液中の不飽和脂肪酸の量が少ないということが特徴としてあげられています。
また、日本の犬種は、血液中の不飽和脂肪酸が元々少ない犬が多くいるという特徴があるようです。
さらに、研究の結果、認知症の犬にDAHやEPAを補充することで症状が改善されたという実例もあることが報告されています。
痴呆犬は近年増加傾向にあるが、これらの犬にEPAおよびDHAを主とした ω・3不飽和脂肪酸を投与するとその症状が改善するとされている。
正常犬の痴呆診断スコアは投与前前後で変化は認められなかった。痴呆犬1では認知機能の改善 夜鳴きの消失が認められ 痴呆スコアは約40%減少した。痴呆犬2は 投与後のスコアに変化は見られなか ったが排尿習慣の改善および毛艶の良化が認 められた。
EPAの全血粘度低下作用、赤血球変形能充進作用お よび血小板・板粘着能低下作用による脳 血流改善が、痴呆犬の症状改善に役割を果たしている可能性は高いと考えられた。
ω・3不飽和脂肪酸投与は痴呆犬の自律神経を活性化する可能性が示唆された。
出典元 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpan1998/7/Supplement/7_14/_pdf
つまり、認知症の発症には、DHA・EPAの不足が関係しており、日本の犬種に発症リスクが高い理由は、血液中にその栄養素が少ないことであると考えられます。
そして、不足する理由には、日本の犬種が魚中心の食生活をしてきたことが関与していると思われます。
これまでの食生活によって、DHA・EPAの要求量が高くなっていて、それが日本の犬種の身体的な特徴ではないかと考えられているのです。
日本の犬種は、従来の魚を蛋白源とした食生活の栄養素では問題なかったけれど、近年になって、肉類を蛋白源としたフードに変化したことで、不飽和脂肪酸の摂取不足が起こり、認知症発症のリスクに繋がっているのではないかというのが仮説です。
これはあくまでも「仮説」であり、現時点で明確なことはわかっていません。
しかし、認知症の発症と犬種の関係は何かしら存在すると言うことはできそうです。
【認知症のサプリメントの参考記事】
病気のリスクはどの犬にもある
ただ、リスクの高いとされる犬種が必ず発症するわけではありません。
犬種との関係についてのデータがあるというだけで、病気になるリスクは、どの犬種でも、どの犬でもあると考えるべきだと思います。
その症状の中には、飼い主さんのことも認識できなくなったというような切ない現実もあるでしょう。
高年齢になり、認知症の症状が出ている犬が捨てられることも少なくないようです。
しかし、そうなるまで、人は愛犬の存在に支えられ、幸せな日々もあったはずです。
認知症になり記憶や学習能力を失ったとしても、不安や恐怖までなくなるわけではなく、認知症になっても、あなただけを信じてここまで共に暮らしてきた家族であることに変わりはありません。
どうか最後までお世話をして、不安な彼らの傍にいてあげて欲しいと思います。
まとめ
最近は、犬も高年齢化していて、認知症発症リスクの高い年齢の犬は多くいます。
愛犬が年齢を重ねるごとに、身体の健康とともに、それまでにはなかったような行動の変化なども見逃さないようにしなければなりません。
犬の認知症も人と同じように、その病状に合った対応を工夫することで進行を遅らせながら暮らしていくことは可能です。
飼い主さんが病気を理解し、上手に対応していく為にも、まずは進行の程度など現実的なことをきちんと把握することが大事です。
できるだけ早期に医療にかけ、相談できる窓口を作っておいて下さい。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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