私の愛犬にはてんかんがあり、毎日薬を飲ませています。
1歳の頃から定期で飲ませ、もう10年近くになります。
てんかんという病気は普段は特に症状がないので、薬を飲ませてない飼い主さんや副作用が怖いので薬をやめたいと思っている飼い主さんもいることでしょう。
てんかんの薬にはたしかに副作用もあります。
今回は、どんな種類の薬が治療に使われているか副作用には何があるかなどについて、人の看護師の立場からご説明できたらと思います。
また、私の愛犬のてんかん治療がどのようにおこなわれて来たかも合わせて共有したいと思います。
症状がなくてもてんかんの薬を続ける理由
犬のてんかんの症状の表れ方は様々です。
発作とひとことで括っても、パターンはいくつもあります。
普段はてんかんという病気があるとわからず、いたって元気にしている犬がほとんどです。
そして前兆がわかることもありますが、突然というようなタイミングで発作を起こします。
てんかん発作は脳の異常興奮であり、発作のたびに脳はダメージを受けます。
発作が重なるほど脳は疲労し傷ついて、その影響が次の発作に繋がるというスパイラルに陥ります。
てんかんの治療は、発作を極力起こさないように脳を守る治療と言えばわかりやすいでしょうか。
発作が起きた時だけ治療をすればよいのではなくて、発作を起こさないように普段から予防するのです。
人のてんかん治療は、何も症状が現れてない普段から、抗てんかん薬を飲んでコントロールします。
私が救急で仕事をしていた時、てんかん発作の患者さんもよく運ばれてきました。
初発より診断名がついている人で、薬が指示通りに飲めてないか中断しているパターンが多かったです。
発作が出た時だけではなく普段から薬で発作を抑える治療は、犬のてんかんも人と同じです。
《犬の抗てんかん薬開始の目安》
- 月一回以上の発作があった
- 発作の間隔が3~4ヶ月以内
- 群発発作を起こした
- 重責発作を起こした
- 発作の頻度が増えた
てんかんの治療は、発症してできるだけ初期に治療を開始する方が、何度も発作を起こしたあとに開始するよりも、発作のコントロールがうまくいくようです。
それは「発作を繰り返すたびに脳がダメージを受ける」ことと関係しています。
つまり、ダメージが大きくなってからの治療よりも少ないうちに治療を開始した方がよいのです。
また、てんかん発作は脳炎や脳腫瘍などの病気が原因のこともあるので、それを早期に見極めることも重要です。
「てんかんの薬は飲み始めたらやめられない」の誤解
てんかん治療のメインは抗てんかん薬です。
「抗てんかん薬を一旦飲ませ始めると、ずっとやめられなくなる」と恐れている飼い主さんがとても多いことをネット上で知りました。
抗てんかん薬を飲ませてしまうともう後に引けない、治らないという絶望的な意味に捉えているようですがそれは誤解です。
その前に、てんかんは良好にコントロールはできるけれど完治する病気ではないと受け止めることが必要かもしれません。
受け止めるのは難しいでしょうが、てんかんという病気は爆弾を抱えているようなものなので、薬をいきなり中断したりすると、抑えられていた発作を誘発する(離脱発作)危険も大きくなります。
てんかんの治療は、薬で発作を抑え脳の安定した状態を保つことが目的になります。
発作を予防するためにてんかんの薬を生涯継続する必要があるという意味では、薬をやめられないというのは事実です。
ですが例えば抗生剤のように、一定期間飲んだら止めるという薬ではなく、薬を飲み始めたせいで病気が悪くなってそうなるのではありません。
てんかんの治療薬とそれぞれの副作用
犬のてんかん治療薬は人の薬と共通のものもあります。
でも、選択肢は人の薬ほど多くはないようです。
♦フェノバルビタール
フェノバルビタールは、バルビツール酸系という種類の薬です。
フェノバールという商品名で、人の臨床でも有名な薬です。
散剤(粉薬)・錠剤・注射薬があり、治療開始時にはまずこの薬を処方する獣医師が多いです。
私の愛犬も、最初に全身性のけいれん発作を起こした時、この薬で治療開始しました。
フェノバルビタールは、中枢神経を抑制して興奮を鎮める効果があります。
人の臨床では、睡眠薬や静脈麻酔薬として長く使用されてきた、歴史のある薬ですが、人のてんかん治療には現在、第一選択薬ではありません。
治療域と毒性域が近く、簡単に言えばほんのわずかな違いで薬にも毒にも転じるため、投与量の微調整がとても重要です。
過剰投与になると、深刻な肝障害の危険があります。
この薬を使う場合は、血中濃度の測定検査が必要です。
この薬は単独で使用され、効果が得られない場合でも血中濃度が十分あがっていれば増量することはできません。
その際は他の薬(臭化カリウム)を併用します。
血中濃度は、投与後4~5時間で最大まで上がります。
効果が安定するまでには2週間ほどかかります。
<副作用>
飲み始めに見られる初期副作用と、長期服用中に出て来る長期副作用があります。
【初期副作用~投与して2週間くらい】
抑うつ状態・ふらつき・鎮静・過眠傾向・動きが悪くうまく歩けない・足がもつれる
【長期副作用】
動きが鈍い・食欲の亢進・肥満・多尿・尿失禁・肝機能障害
食欲があるのは元気な印象もあるかもしれませんが、異常な食欲亢進は薬の副作用です。
肥満防止の為にも、食事量のバランスをとってむやみに食事量を増やさないようにしなくてはなりません。
この薬は、肝障害を起こす危険がもっとも重大な副作用で欠点と言えます。
食欲不振、黄疸や腹水などの症状は、肝障害を起こしている兆候です。
早急に他の抗てんかん薬に変更し、肝障害に対する治療が必要になるので、注意して観察して下さい。
愛犬は、フェノバルビタールを短い間しか使用しませんでした。
それでも、初期副作用はほとんど全てが現れていたと思います。
私の友人の犬はもっと長い期間使っていましたので、ぼーっとしておとなしくなり、その変化は著明でした。
だからと言ってむやみに怖がるのではなく、何より大事なことは、
- 獣医師の指示に従って服薬を守ること
- 副作用に気づいたら早く主治医に相談すること
です。
フェノバルビタールという薬には依存性もあります。
先述しましたが、急に中断すると離脱症状でひどい発作を起こす危険があります。
薬の変更をする時も、獣医師の指示通りに移行しないといけません。
一緒に飲ませてはいけない薬もあります。
血中濃度が下がると効果が得られなくなるので、勝手に止めたり与えたりはせず、必ず獣医師の指示に従って下さい。
♦臭化カリウム
臭化カリウムは、人の臨床では抗不安薬や抗けいれん薬として使用されてきた歴史のある安全性の高い薬です。
フェノバルビタールで効果が得られない時に、フェノバルビタールの量は増やさずに併用する薬として使用されます。
肝臓が悪く、肝臓に負担のかかるフェノバルビタールは使えない時でも、臭化カリウムを単独で使用することもできます。
粉末の薬ですが、とても少ない量で管理が難しいため、普通は液剤として処方されることが多いです。
ただ病院にもよるのか、私の身近でこの薬を粉のまま処方されており、吹けば飛んでなくなるほど少ないので、必要量が摂取できているか不安になると言っている飼い主さんがいました。
この薬を追加すると効果が上がることが期待でき、肝臓に負担もかからない安全な薬ですが、効果が現れるまでにはかなり時間がかかるようです。
<副作用>
嘔吐・胃粘膜刺激・食欲の亢進・多尿など
♦ゾニサミド(コンセーブ)
ゾニサミドは、エクセグランという商品名で人の抗てんかん薬もあります。
また、同じ成分でできたトレリーフという商品名の薬は、人のパーキンソン治療に使われています。
ゾニサミドは日本で開発された薬で、海外に先駆けて1989年に日本で発売されました。
それまではフェノバルビタールが主流でした。
フェノバルビタールでは発作のコントロールが難しい難治性てんかんなども、ゾニサミドによってよい結果が得られるようになったようです。
何よりもこの薬の利点は副作用が殆ど出現しないことです。
血中濃度も測定できるので、濃度を確認しながら治療できます。
私の愛犬は、このゾニサミドを使っています。
最初のわずかな期間だけフェノバルビタールでしたが、すぐに変更してからずっとこれが処方されています。
動物医療で使用する薬には、人間用をそのまま使用することも多いですが、ゾニサミドは、現在、コンセーブという名前で犬用の抗てんかん薬が発売されています。
獣医師の好みか、「コンセーブ」を処方する病院もあれば、人用の「エクセグラン」を処方する病院もありますが、成分はどちらもゾニサミドです。
価格は「コンセーブ」の方がいくらか割高かもしれません。
犬用抗てんかん剤「コンセーブ®錠 25mg/100mg 」
DSファーマアニマルヘルス株式会社
■組成
コンセーブ錠 25mg は、1 錠中にゾニサミド 25mg を含有する。
コンセーブ錠 100mg は、1 錠中にゾニサミド 100mg を含有する。通常ゾニサミドとして、初回投与量は、体重 1kg 当たり、2.5~5mg を 1 回量とし、1 日 2 回、およそ 12時間間隔で経口投与する。
以後、臨床徴候により必要に応じて漸増する。なお増量後の用量は、通常 10mg/kg/回までとする。
ゾニサミド単独でてんかん治療が可能です。
この薬は、フェノバールとの併用はできません。
<副作用>
過敏症・嘔吐・軽度の鎮静・ふらつき・部分的な振戦(ふるえ)・食欲が低下する・骨髄抑制による再生不良性貧血や無顆粒球症など
もっともこれらの副作用は、服用開始して数日以内に消失することが多いのです。
愛犬は実際にこの薬を長年に渡って飲んでいるわけですが、目立った副作用を感じることはほとんどありません。
依存性や重篤な肝障害を起こす危険も少ないため、長期服用しやすく安全と言えるでしょう。
薬は、使い方次第で毒にもなる物質なので、全く何の影響もないとは言えないですが、うちの場合はこの薬で病気とうまく付き合っています。
♦ジアゼパム
セルシンやホリゾンという商品名で知られている薬で、人の臨床でも鎮静薬として使われています。
過去には胃カメラの時の前処置などに、眠くなる注射薬してよく使用されていました。
この薬はベンゾジアゼピン系抗不安薬という種類で、即効性が期待できます。
錠剤・注射薬・座薬があり、てんかん発作時に注射処置で使用されるのもこの薬です。
また、発作時の屯用として処方されるダイアップ座薬もこれです。
<副作用>
鎮静・ふらつき・呼吸抑制
長期の継続使用では依存性や耐性が生じやすいため、短期的に使用される薬です。
♦クロナゼパム
リボトリールやランドセンという商品名で、ジアゼパムと同じ系統ベンゾジアゼピン系の抗てんかん薬です。
ジアゼパムより作用時間が長く、長期に使用すると依存性や耐性という副作用を生じる点は似ています。
抗てんかん薬を他のものに変更する時など、移行時の調整で一時的に使用するような使い方をされることがあるようです。
♦フェルバメート
薬でのコントロールが困難な難治性てんかんに有効と言われますが、発売後まもなく、人間において重大な肝毒性の副作用を起こして問題となった薬です。
犬の安全域は広いとされています。
高価なためにあまり使用頻度の高い薬ではないです。
♦ガバペンチン
吸収がよく、血中濃度もあがりやすく(有効化されるのが早い)、治療抵抗性のてんかんに使用されます。
ただ、作用が切れるまでの時間も短いので、頻回な投与が必要なのが難点です。
プレガバリンという、これの類似薬の方は、半減期がこの倍くらいある(効果の持続時間が長い)ようです。
<副作用>
鎮静化が起こり意識レベルが低下
♦レベチラセタム
レベチラセタムは、イーケプラという商品名の抗てんかん薬です。
イーケプラは、他の薬で効果が得られない時に併用するか、部分発作では単独使用で効果が得られる薬です。
この薬の利点は効果が現れるのが早いことです。
通常、薬の血中濃度が安定するまでには日数がかかります。
血中濃度が安定し、効果が得られるようになるまでには
- フェノバルビタール:10~14日
- ゾニサミド:10日程度
- 臭化カリウム:2~3ヶ月
程度かかるとされます。
その点、レベチラセタムは、1日の服用で効果が安定します。
なので、すぐに作用して欲しい時などに単発的に使用することもできる画期的な薬です。
愛犬も、発作時の屯用としてジアゼパムの座薬とレベチラセタムを処方されています。
発作時はイーケプラを3日間追加内服させる指示をもらっています。
<副作用>
嘔吐・流延(よだれ)・軽い鎮静
抗てんかん薬の副作用による変化について
抗てんかん薬の副作用でわかりやすいのは、率直に、フェノバルビタール服用による変化ではないかと思います。
薬を服用すると反応が鈍くなり、活発さが薄れてあまり動かなくなります。
ただ食欲だけは異常にあり水もがぶがぶ飲む状態です。
そんな姿を見て、病気で犬が変わってしまったとショックを受けるかもしれませんが、犬が変わったわけではなくこれが副作用です。
私の愛犬がフェノバルビタールを使用したのは短期であまり参考になりませんが、寝てばかりという印象でした。
最近、友人の犬がてんかんになりフェノバルビタールが処方されました。
元々は活発な子でしたが、おとなしくなりボーっとしていました。
ただ行動変化には、発作の影響や後遺症の場合もあるので、副作用との区別が必要です。
そしてもちろん個体差はあると思います。
それでも、薬の副作用で不調に陥るよりもてんかん発作を起こす不調の方がはるかに影響が大きいはずです。
副作用があるからなるべく薬を使わないのではなく、薬を適切に使って、できる限り発作を起こさせないことが重要です。
てんかん薬を服用中は、定期的に血中濃度や肝機能を調べて副作用をチェックします。
飼い主さん自身でも、食欲や行動の変化など、日々の記録を少しでもしておくと役に立ちますよ。
まとめ
犬のてんかんの治療薬は、人のてんかん治療薬と共通しています。
そして、薬にはもちろん副作用もあります。
それでも、てんかん治療は、適切に薬を使って脳を発作から守ることが大事なのです。
治らないと受け入れたり、きつい薬に抵抗がある飼い主さんの気持ちもわかります。
でもどうか必要に応じて薬を入れてあげて下さい。
犬は自分で治療を選べません。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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