犬も高齢になるにつれ身体機能に老化の影響があらわれます。
心臓の病気はその代表的なものです。
心臓の病気は、診察の時に聴診器で心臓の雑音を認められ発見されることが多いですが、雑音がなかった私の愛犬にも発見されました。
犬の心臓病の中で、今回はとても頻度の高い「僧帽弁閉鎖不全症」という病気について、症状や経過中に飼い主ができることなどお伝えしたいと思います。
心臓の雑音は簡単にわかる
心臓の雑音は、胸に聴診器を当てれば簡単に発見できます。
定期の受診時や健康診断などで、獣医師が聴診器を犬の胸に当てているのを見たことがあるのではないでしょうか?
あれは心音を確認しています。
人間も、診察時に医師が聴診器を胸に当てますよね。
そうすることで、心音や呼吸音を聴いて異常がないかを確認できます。
心臓の雑音は、明らかに異常な心音として聴取できます。
ただ、その程度は弱い~重度まであり、微弱な雑音だと、犬が静かにしている状態でなければ聞きとることは困難なようです。
反対に、かなり進行した状態のひどい雑音は、聴診器なしでも犬の胸に手を当てただけで外からわかるほどだそうです。
私の知人が飼っていた犬は、かなり心臓病が進行していましたが、抱いているだけで異常な鼓動がわかり不安だったと言っていたのを思い出します。
心音とはそもそも何の音なのか?
当たり前のことですが、心音は心臓の拍動の音です。
心臓の中を通る血液は、規則正しく一方向に流れています。
心臓には、血液が逆流するのを防止するための、一方向にしか開かない扉のような「弁」というものがあります。
心音とは、弁の開閉や心臓壁が収縮することなどで生じる規則的な音です。
正常な心音には、「Ⅰ音」と「Ⅱ音」の2種類の音があります。
- Ⅰ音:房室弁(僧帽弁・三尖弁)という名前の弁が閉じる時に血流が遮断されて生じる音
- Ⅱ音:大動脈弁や肺動脈弁が閉じる時に血流が遮断されて生じる音
《心臓の解剖図》
心臓は、1つの単純な形状の臓器ではありません。
心臓の中は、4つの部屋に分かれていて、血液逆流防止弁も4つの種類があります。
心臓が拍動するたびに、それに合わせてそれぞれが開閉し、心臓の中を流れる血液を逆流させることなく一方通行に流れるように保っているのです。
犬の心拍数は70~160回/分、子犬はもっと多く220回/分くらいあります。
ちなみに人の場合、成人では60~80回/分が正常です。
心臓の雑音にはどんな意味があるのか?
心臓の雑音はまれに病的でないこともありますが、基本的には、心臓が正常に機能していれば雑音が生じることはないです。
心臓の雑音は心臓病があるということを意味します。
心臓の雑音は、逆流防止弁の開閉がうまくいかず、血液の逆流を完全に止めることができなくて、弁の隙間から血液が逆流していることを表しています。
心臓の雑音は、診断を統一させる為に6段階の評価で表されます。
【心臓の雑音の6段階評価】
- 非常に微かな雑音・静かな環境下で注意深く聴取すれば確認できる
- 微かな雑音・聴診器で容易に聴取できる
- 中程度の雑音
- 大きな雑音でスリルを伴う・前胸部の振戦はない
- 非常に大きな雑音・触診にて前胸部の振戦がわかる
- 聴診器がなくても聴取可能な雑音・前胸部の振戦を伴う
診断の確定は次の段階の検査で
心臓に雑音があることがわかったら、確定診断の為に次の検査へと進みます。
次の段階の検査は、X線(レントゲン)検査、心電図検査、超音波検査、血液検査などです。
X線検査では、心肥大の程度を調べたり、重度の心臓病から起こる肺水腫を起こしてないか確認します。
肺水腫は緊急を要する病気で酸素の投与や投薬などの入院治療が必要です。
心電図検査では、心臓が規則正しい動きをしているか、不整脈が出ていないかを確認します。
超音波検査(心エコー)では、心臓の動きや心臓の構造、血液の流れや逆流の程度なども映像として可視化できます。
血液検査では、心不全から起こる肝臓、腎臓などへの影響を確認します。
私の犬は3ヶ月に1度、心エコーで心臓の状態を確認してもらいます。
心エコー検査は手軽にできて短時間で正確な情報が得られるので、人の救急でもしばしば活用される検査です。
フィラリア感染を確認する
一昔前の犬の心臓病の原因は、寄生虫であるフィラリアの感染によるものが多くを占めていました。
近年は犬の飼育環境の改善や、犬の飼育に対する飼い主さんの意識が高くなったことで、フィラリア予防薬の投与も一般的になり減少しているようです。
しかし、減ったとは言え予防意識には地域差もあり、今でも多く発生している病気と言えます。
そのような理由から、心臓の雑音については、フィラリア感染の有無も調べることがあります。
雑音がある時にあらわれる症状
心臓病の初期は、聴診で雑音が確認できるだけで、特に目立つ症状は見られません。
病気が進行してくると、心臓が大きくなって(心肥大)気管支を刺激し、肺に水が溜まる(肺水腫)などの理由から、咳の症状があらわれるようになります。
特に、興奮時、運動時、夜中など、むせるような咳の症状が見られるようになります。
安静時でも呼吸が早い、呼吸が荒いなどの症状、興奮時には舌が紫色になる(チアノーゼ)症状、疲れやすくなり散歩や運動を嫌がる、呼吸困難、急に意識を失う、浮腫、腹水などの症状が現れます。
肺水腫は、心臓病のかなり重度の症状であり、横になると肺に溜まった水が動くために呼吸困難になり、苦しいので座ったままで過ごすようになります。
肺水腫は、早期に対処しなければ命に関わります。
心臓の病気は、初期には雑音だけで特に症状がなかったとしても、進行すると突然死という最悪の症状に襲われる危険があるので要注意です。
犬の心臓病に多い僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)
犬の心臓の病気で、圧倒的に多いと言われるのが、僧帽弁閉鎖不全症です。
僧帽弁は、心臓の血流の逆流防止弁の一つで左心室と左心房の間にある弁です。
弁の異常の中でも、僧帽弁の閉鎖不全がもっとも高い頻度で発生します。
私の愛犬も例外ではなく、この病気でした。
弁の閉鎖不全症は進行していき、将来的に心不全を誘発します。
心不全が重症になると、肺水腫を併発して呼吸困難に陥るという最悪なパターンを取るようになります。
病態
加齢などが原因になって弁の肥厚や変形を起こし、弁は完全な開閉ができなくなります。
弁がきちんと閉じなければ、心臓内の血液の遮断は不完全で、隙間から漏れて逆流が起こり心雑音の原因になります。
病気は進行し、血液の逆流の量も次第に多くなり、心臓の中には流れきれなかった血液が溜まっていきます。
本来なら大動脈から全身に送り出されるはずの、正常な流れの血液は不足し、全身への酸素の供給が追い付かないようになります。
心臓は、全身に送り出す血流を増やそうとして、心臓のポンプ機能を過剰に働かせ、その負担に耐えるために心臓が肥大していきます。(心不全の状態)
このようにして、徐々に症状が悪化し、重度の肺水腫を始めとした合併症を起こすようになり、突然命を失う危険のある病気です。
好発犬種と好発年齢
僧帽弁閉鎖不全症の発症は、老化だけでなく遺伝的な素因も関係すると言われています。
心臓病は、元々は高齢の犬に多いものです。
しかし好発犬種では、5歳前後くらいですでに病気の症状が表れていることもあります。
この病気は小型犬に多いです。
私の愛犬も条件に当てはまり、好発犬種のチワワです。
私が知っている、この病気のある犬は、今思い浮かべただけでもチワワが何匹もいます。
心不全のステージ分類
僧帽弁閉鎖不全症は、進行すればいずれ心不全を起こします。
進行の程度は、心不全の重症度に分類されます。
どの分類であるかが、治療方針を決める時の指標になります。
《ACVIM Consensus Statement におけるグレード分類》
(American College of Veterinary Internal Medicine=アメリカ獣医内科学会)
♦ステージA 心疾患を生じるリスクは高いが、現時点で心臓に器質的変化が認められない。(小型犬、King charles Spanielなど将来MRになりやすい犬種) ♦ステージB 器質的変化は認められる(例えばMRの心雑音は存在する)が、心不全の臨床徴候はない。 ステージB1 無症状であり、X線検査あるいは超音波検査において心臓リモデリング(心拡大)の徴候が認められない。 ステージB2 無症状ではあるが、血行動態的に顕著なMRがあり、X線検査あるいは超音波検査において左心系の拡大が認められる。 ♦ステージC 現在もしくは過去に器質的心疾患に起因する心不全の臨床徴候が認められるが、入院治療が必要でないもの。急性心不全により入院治療が必要なものはステージDに分類される。 ♦ステージD 標準的な治療に抵抗を示す心不全の臨床徴候が認められる末期病態。入院下での治療が必要 出典元 https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/21/4/21_147/_pdf
基本は内服による治療だが手術の適応もある
僧帽弁閉鎖不全症の治療は、内服で症状をコントロールをすることが基本です。
一旦悪くなった心臓の弁は、残念ですが治りません。
ですので、できる限り初期の段階で治療開始し進行を抑えるしかないのです。
治療に使用する薬は、病気そのものを治すのではなく、症状を緩和して心臓の負担をできるだけ少なくすることを目的としたものです。
心臓の負担を減らすことは大事なことで、心不全の進行を抑えるということに繋がります。
つまり、できるだけ心臓のよい状態を保ち延命を期待することになります。
重度の心不全になってしまうと、症状を抑えるのが難しくなり延命効果もあがりにくくなります。
なので治療開始のタイミングはとても重要です。
《心臓の治療に使用される薬》
第一選択薬=血管拡張薬(ACE阻害薬)
その他:利尿薬・強心薬・β遮断薬など
薬は、症状に応じて複数組み合わせて処方されます。
咳の症状がある時には、鎮咳薬などが使用されます。
薬は生涯にわたり服用しなければなりません。
進行の状態を確認するために定期的に検査を受ける必要もあります。
手術
僧帽弁閉鎖不全症の一般的な治療は薬の内服による保存的治療ですが、手術という外科的治療方法もあります。
僧帽弁修復術という手術方法で、犬の場合も一定の基準を満たせば手術の適応があります。
人の同じ病気では、むしろ手術による治療が第一選択です。
この手術は人工心肺に繋いで行うもので、犬の場合、手術ができる医療機関はまだ数少なく限定されます。
さらに手術にかかる治療費は高額であり、また、手術をおこなっても完治できない可能性、麻酔や手術によるリスクなども検討しなければなりません。
心臓の病気がある犬の生活上の制約
犬の心臓に病気があるとわかれば、とにかく、できるだけ心臓に負担をかけないよう注意しなければなりません。
《生活上の注意ポイント》
- 塩分の制限
- 運動の制限
- 内服を守る
- 定期的な受診
- 緊急時の対応を決めておく
心臓病の食事
犬の心臓病には療法食フードがあります。
必要な栄養素が強化された専用のフードで、病院でもおすすめされることがあるかもしれません。
心不全のステージや他の合併症があるかにもよるので、獣医師によく相談してみて下さい。
うちは、膀胱に結石があったのでそちらの対応を優先し、心臓病用のフードではなくPHコントロールの療法食を食べさせています。
ただ、いずれの場合も、塩分(ナトリウム)の制限は絶対守って下さい。
人間の味の付いた食べ物を与えないのはもちろん、おやつも塩分を含むものは控えなければなりません。
また、心臓に負担をかけない為には体重のコントロールも大事です。
心臓の病気がある犬は、運動制限もされることが多いので太りやすく痩せにくいですので注意しなくてはなりません。
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心臓病の運動制限
心臓の病気がある犬は、長時間の散歩や走らせることなどは避けなければなりません。
疲れやすい症状があり、散歩をしたがらない犬もいるでしょう。
症状が軽いうちは、犬には心臓の病気の自覚はありません。
飼い主さんが制限しなければ、過剰な運動も続けてしまう危険があります。
どの程度までの運動なら可能か獣医師の指示を受けておいて、もし制限があるのなら、見た目は何ともなくても飼い主さんがしっかり制限をかけて下さい。
運動以外でも、興奮させることが心臓に急激な負担をかけますので注意が必要です。
その他にも、寒冷刺激・室温調整など、ストレス要因はたくさんあります。
そのような刺激を避け、ストレスのない快適な環境作りをしましょう。
ペットホテルやトリミングサロンも獣医師の指示が必要です。
預ける際には必ず病気があることを話し、心臓病に理解のある施設を選択するようにして下さい。
緊急時のこと
心臓の病気は、急変し突然死もありうることを念頭に置いておいて下さい。
そして、緊急時にどのように対処すればよいのかをかかりつけの医療機関と事前に話し合っておきましょう。
かかりつけ医で対応が可能なのか、地域の救急センターなのか、それはどこにあるかなど把握しておく必要があります。
舌が紫色になって(チアノーゼ)呼吸状態がおかしい時などは、緊急事態です。
酸素が必要になるので、自宅で酸素室の準備や単発的に使用できる酸素缶などを常備している飼い主さんもいらっしゃいます。
酸素缶は人用のものでOKですが、きちんと密着させて吸入させるのにはコツがいるかもしれません。
ただ手軽ですので準備はしやすいと思います。
酸素室も購入できますが、購入するとなるとかなり高額です。
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酸素ハウスはレンタルを利用する方法もあります。
酸素ハウスのレンタル情報は、病院で得られると思いますので確認してみて下さい。
定期検査と内服
たまたま定期健診などで心臓の病気が発見された場合、まだ症状がないことが多いかもしれません。
私の愛犬も、聴診で心雑音さえ聴取できなかったのに、健診の心エコーでは明らかな血液の逆流が見られ、診断がすぐにつきました。
心臓病は、確実に進行していきますので、定期的な診察フォローは絶対条件です。
どのくらいの間隔で検査や診察を行うのかは、獣医師の指示に従って下さい。
だいたい、最低でも3~6ヶ月ごとの受診が必要だと思います。
うちは2~3ヶ月ごとに通院し、診察・検査をおこなっています。
そして薬は大事ですのできちんと飲ませるようにして下さい。
まとめ
犬の心臓に雑音がある病気は、他にも先天的な心臓の奇形や心筋症などがありますが、それによって発見されるもっとも多い病気は、僧帽弁閉鎖不全症です。
高齢になれば、心臓の病気のリスクは確実に上がります。
それまでが健康だったとしても、シニアになれば定期健診をきっちりと受けることを私はお勧めします。
また、フィラリアなどの予防可能な病気は、確実に予防してあげて下さい。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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