毎年、桜の開花の話を耳にすると、私はフィラリア予防薬のことが頭に浮かびます。
飼い主の意識は高まったと言われる今でも、やはりフィラリア症を発症する犬は多くいるようです。
フィラリアは予防できる病気ですが、予防しなければ高い確率で感染して心臓病の症状を発症し、治療も困難です。
予防の必要性を認識するために、フィラリア症の感染経路などについて情報共有したいと思います。
フィラリアは蚊が媒介する寄生虫
フィラリアは体内に寄生する寄生虫の一種です。
「糸状虫上科」という種類に属するものを総称してフィラリアと呼びます。
正確にはフィラリアとは犬だけでなく人間のフィラリアもあります。
犬に寄生するフィラリアは犬糸状虫と呼ばれ、犬への寄生が圧倒的に多いのですがまれに猫にも寄生します。
犬のフィラリアの成虫の写真などをご覧になったことがあるでしょうか?
時々、犬の心臓病の画像として見ることがありますがグロテスクです。
白くて細長くまるでそうめんのようで、長いものでは30cmほどにもなるそうです。
フィラリアは、寄生している犬の体内で幼虫を産みます。(フィラリアは卵を産まない)
この幼虫はミクロフィラリアと呼ばれます。
フィラリアの感染経路
幼虫のミクロフィラリアは犬の血液中に漂って、蚊に吸血されるのを待ちます。
蚊がその犬の吸血をする時、ミクロフィラリアは一緒に蚊の口から蚊の体内に移動します。
ミクロフィラリアは脱皮するごとに成長します。
その成長段階はL1~L5と5段階に分類されます。
蚊の体内で2回の脱皮をしてL3まで成長することができれば、感染可能なレベルのミクロフィラリアになります。
L3に成長したミクロフィラリアは、蚊が次の犬の吸血をする時に蚊の唾液に混じり、その犬の皮膚の上に落ちます。
そして、蚊が吸血した穴から犬の皮下に入り込み、その犬の体内に移動します。
ミクロフィラリアは、今度は犬の体内で成長を続けながら血管内に移動し、最終目的地である肺動脈にまで達して成虫になります。
成虫になったフィラリアは、肺動脈に寄生したまま交尾して増え続け、増えすぎて肺動脈からはみ出し、心臓の方へと貯まっていきます。
メスのフィラリアは、交尾ごとに毎日2000~3000の幼虫を産むというのですから本当にゾッとする話です。
一方、蚊に吸血されずに犬の血液中に留まったままのL1レベルのミクロフィラリアは、その状態では成長できないので2年ほどで死んでしまいます。
フィラリア症は心臓病として発症する
L1のミクロフィラリアは宿主を変えながら40~50日でL5まで成長します。
そして120~150日で成虫フィラリアになります。
成虫のフィラリアの寿命は5~6年あり、その間は犬の肺動脈や心臓の右心室の中で生息します。
フィラリア寄生の犬の心臓や肺は、機能が阻害され続けます。
血管内壁は損傷され、フィラリアの死骸や血栓が血管内を流れ、細かい血管に詰まるようになり血流を阻害します。
感染して症状出現まで数年
フィラリアは、犬と蚊の体内を移動しながら成長し、最終的に犬の肺動脈や心臓に寄生する寄生虫です。
フィラリアが体内に住み着いてから、フィラリア症は慢性に経過し徐々に心臓や肺の機能を蝕んでいきます。
犬にフィラリア感染のあきらかな症状が現れるまでに数年かかると言われます。
発症した頃には、フィラリアは心臓内に大量に寄生していて重症になっていることが少なくないのです。
要注意・フィラリアの急性経過(大静脈症候群 Vena Cava Syndrome)
フィラリア症の多くは慢性的に経過するのですが、時に急性症状を表すこともあります。
その原因は、フィラリア虫体の多さによるものです。
肺動脈からはみ出した虫体が心臓の三尖弁(逆流防止弁)に絡み付き、急性の心不全を起こして正常な血液循環が遮断されます。
血液の流れる場所に虫体が多く絡んでいる為、そこを流れていく血液中の血球は壊れていきます。
血球が壊れることにより血尿の症状が現れ、貧血が急速に進行します。
いきなりの血尿で急に容態が悪くなる、というような急性症状のフィラリア症は、急いで対処しなければ一晩で死亡してしまうこともあり、とても危険な病状です。
【参考記事】
フィラリア症の初期症状
フィラリアが寄生する場所は肺動脈や心臓なので、心機能や肺機能が悪くなりそれに由来する症状が現れます。
酸素欠乏状態になるので、
- 動くとすぐに疲れる
- 散歩で歩くことや階段などを嫌がる
- 息が荒くゼイゼイいう
- 早朝や興奮時に咳が出るようになる
- 食欲不振
- 重度貧血
- 突然ふらついて倒れこむ
などの症状が目立つようになります。
寝てばかりの犬を見ても飼い主さんは「高齢だから」というように捉えてしまうことも多いかもしれません。
そしてこのまま気づかれなければさらに病気は進行していきます。
全身の循環障害は、腎臓や肝臓など他の臓器の機能不全も起こします。
フィラリア症の末期症状になると、肺水腫や腹水が出現するようになります。
フィラリア感染から未治療だと、慢性的な経過で2~3年で末期症状に至るとされています。
慢性的に経過していたとしても、フィラリア成虫の増加により突然病状が急速に進行することもあります。
フィラリア症の治療
フィラリア感染をしているかどうかの確認は、血液検査をして、ミクロフィラリアや虫体が出す特異なタンパクを調べることです。
感染がわかれば、心電図や超音波検査などで心臓や肺の損傷の程度を検査します。
フィラリアの治療には、手術と薬の2つの治療法があります。
犬の体力や病状により治療法を選択できますが、急性悪化したフィラリア症については緊急手術が必要です。
フィラリア症の手術・フィラリア釣り出し術とは
全身麻酔下で、首の頚静脈を切開して細い鉗子を挿入し、心臓に絡んでいるフィラリアの虫体を釣り出します。
フィラリアの摘出が成功すれば、犬は元気に回復することができますが、悪化したフィラリア症では術中や術後に亡くなってしまうこともありリスクは高いでしょう。
フィラリアの寄生で血管内はかなりダメージを受けているので、術後も心臓の治療の継続が必要になります。
手術で摘出できるのは成虫なので、術後に体調が回復してきたら、今度は幼虫であるミクロフィラリアの駆虫にフィラリア駆虫薬を投与しなければなりません。
薬による治療のリスク
手術でフィラリアを摘出しない場合の治療は、
- 駆虫薬で成虫と幼虫を全滅させる
- 幼虫だけ駆除して成虫は経過観察する
- 駆虫は行わずに対症療法をする
という選択になります。
通常、予防薬として毎年健康な犬に投与する薬は、幼虫に対する駆除薬です。
【参考記事】
成虫駆除薬はそれとはまた種類が違うのです。
成虫駆除薬は、幼虫駆除薬よりも強い成分の注射薬であり、注射後の運動制限なども必要で、犬の体への負担も大きいです。
そして、成虫駆除薬では幼虫であるミクロフィラリアは駆虫できないのです。
つまり、それぞれ別な治療薬が必要になります。
また、薬でフィラリアを全滅させると、死滅したたくさんの虫体が血管内に詰まってしまうという危険があります。
さらに、フィラリアはボルバキアという細菌を持っています。
フィラリアが駆除されたことによってこの細菌が一気に血管内に放出されると、臓器に悪影響を及ぼす危険もあります。
近年、ボルバキアを除去すれば、フィラリアは生殖不能か死亡するということがわかっています。
その効果を狙って、テトラサイクリン系の抗生物質を投与するという治療が選択される傾向があります。
抗生物質のみでフィラリアを完全に駆除はできませんが、駆虫薬と併用で処方されているようです。(参考:ウィキペディア )
フィラリア症の予防は飼い主次第
上記のような治療法があっても、フィラリア治療そのもののリスクは高いのです。
またフィラリアが寄生していた時期が長いほど血管や心臓はダメージが大きく、治療後も何らかの症状を残しやすくなります。
犬の健康状態次第では、フィラリアを駆除するような治療には耐えられないこともあります。
その場合は症状ごとに対処しながら体内のフィラリアの寿命が来るのを待つより手段がありません。
その間に犬の健康状態をどれだけ維持できるのかということになります。
フィラリアは、感染すると恐い病気です。
しかし予防薬を確実に投与すれば完全に予防することが可能な病気です。
犬がフィラリア症にかかるかどうかは飼い主次第ということになります。
まとめ
犬のフィラリア症は、フィラリアという寄生虫によって起こる、主に心臓病の症状が出現する病気です。
フィラリアの治療をおこなったとしても、長年寄生されていた血管の内部は傷だらけでボロボロになったままです。
フィラリアに蝕まれた犬は、とても苦しい症状を抱えることになります。
でもフィラリアは感染予防が可能な病気です。
感染予防がいかに大切かをどうか理解しておいて下さい。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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