チェリーアイとは犬の目の病気です。
珍しい病気ではありませんが、この病気をご存じない飼い主さんもいるようで、私が驚いたのは、チェリーアイの犬の写真を繁殖に使う親犬として紹介していた個人繁殖者がいたことでした。
チェリーアイは無症状ではなく、きちんと治し方もあり、放置すると失明の可能性もあります。
今回は、チェリーアイの症状や治療について解説します。
犬にはまぶたが3つある
犬の目を見ていると、開けたり閉じたりするのは上下のまぶたによるものであり、私達と何ら変わりないように見えます。
しかし、実際にはそれだけではなく、犬には(猫にも)目頭側にもう1つのまぶたがあり、眼球が左右に動く際にそのまぶたが眼球を保護しているのです。
これは第3のまぶたであり、第3眼瞼と呼ばれるものです。
鳥にもあるまぶたであり、瞬きによって瞬間的に出て来る動きから瞬膜とも呼ばれます。
ただ、この瞬間的な動きは、犬にはありません。
犬が薄眼を開けて寝ている時、目頭側に白い膜が見えることがありますが、これが第3のまぶた(第3眼瞼)です。
第3眼瞼の裏側には、第3眼瞼腺という、涙を分泌する腺があります。
全体の涙の量の50%はここで作られ、作られた涙は、瞬きするたびに第3眼瞼によって眼球表面に拡散されています。
第3眼瞼腺は、結合組織によって、普通は眼の周りの骨の膜にしっかりと固定されています。
チェリーアイは犬の第3のまぶたの病気
チェリーアイは、「第3眼瞼腺脱出」または「第3眼瞼腺逸脱」というのが本当の病名であり、第3のまぶたの裏側にある、涙を分泌する眼瞼腺が、まぶたの表側に飛び出し盛り上がってしまい炎症を起こしている病気のことです。
チェリーアイという病名はその症状から
チェリーアイという病名の響きは、それほど危機感のない印象を持ってしまうかもしれません。
これは、第3眼瞼腺が外側に盛り上がった状態が、ちょうどさくらんぼのような外観であることからこのように呼ばれています。
つまり裏返って突出してしまっている様子を指しているのです。
《チェリーアイ画像》
画像出典元 http://www.rihono.com/blog/2016/02/post-143-189695.html
チェリーアイは両側に起こることが多く、大抵は片方が発症し、時間を置いてもう片方も発症します。
チェリーアイの原因には、先天性と後天性があります。
先天性のチェリーアイ
チェリーアイは、遺伝的要素が関係している病気です。
先天的にこの病気を発症する犬は、第3眼瞼腺を骨に固定している結合組織が生まれつき弱く、しっかり固定されていない為に、第3眼瞼腺が表に飛び出しやすいのです。
先天性の場合は、生後半年~2歳までに多く発症し、若年齢でのチェリーアイは、おおよそ先天性のものと考えて良さそうです。
また、目が大きく出ている犬種に多く、この遺伝的疾患と関係の深い好発犬種もあります。
【好発犬種】
ビーグル、ペキニーズ、シーズー、ブルドッグ、ラサアプソ、コッカースパニエル、ボストンテリア、チワワ
少し話が逸れますが、遺伝的疾患を持っていることがわかっている犬を繁殖に使うことは、その遺伝子を後世に引き継いでしまい、病気を発症する犬を作り続けることになります。
人が介入する交配で、あえて病気で苦しむとわかっている遺伝子をわざわざ残す必要があるでしょうか。
冒頭で私が驚いたと書いているのは、ブリーダーを自称する人が、チェリーアイを発症しているのが明らかな犬を繁殖犬として紹介していたことでした。
犬の遺伝病をよく知らないのか、知っていても重要視していない人もいるのかもしれません。
しかし、チェリーアイに限らず、遺伝的疾患を持った犬でも繁殖に使う「自称ブリーダー」は多く、それは犬種保存という意味の正統なブリーディングと異なるものです。
結局、人間の無知や身勝手によって病気で苦しむのは犬達です。
以下は、埼玉県獣医師会の中にあるコラムの一部の引用で、参考になりますのでご覧になってみて下さい。
日本は世界でも突出して犬の遺伝性疾患が多い国と言われております。
その原因としては、映画やテレビなどのマスメディアの影響を受けて特定の犬種に人気が集中し、その需要によって無秩序な生産(繁殖)が横行していることが指摘されています。
実際には無症状でも、疾患原因遺伝子を持っている親同士を交配した場合、子が発症する確率は25%ありますので、疾患原因遺伝子を持っている犬を繁殖に使い続けているといつまでたっても病気の犬がいなくなることはありません。
遺伝性疾患を少なくするためには、可能な限り親犬の遺伝子検査を実施して、疾患原因遺伝子を持っている犬を繁殖に使わないことがとても重要となります。
後天性のチェリーアイ
後天性のチェリーアイは、外傷や目の奥の腫瘍などが原因になります。
外傷によって、第3眼瞼に傷がついたり、炎症を起こしたりしたことで、第3眼瞼腺の結合組織が弱くなったり、腫脹して表に突出してしまったり、または目の奥にある腫瘍などの影響で眼圧が上がって起こることもあります。
後天性のチェリーアイの原因は、そのような2次的なものである為、好発年齢は特になく、また、チェリーアイが腫瘍などの異常を発見するきっかけになることもあると考えられます。
【参考記事】
チェリーアイの症状・放置すると失明もある
チェリーアイの症状は、犬も違和感を持っていて、その為に目をこすったりしがちになります。
第3眼瞼腺が炎症を起こして飛び出した状態なので、涙を分泌して眼球を潤し保護するという本来の役割もできなくなり、目が乾燥するという症状が出現します。
その為に、瞬きが多くなる症状や、眩しそうに目を細めるなどの症状が見られます。
目の周囲は涙で汚れ、涙やけや、目の周囲が涙で濡れていることにより細菌感染の症状が起こることもあります。
チェリーアイを治すことなく放置すると、43%という高い確率で乾性角結膜炎(ドライアイ)を引き起こし、目やにや目の痛みの症状が出現するようになります。
目を閉じることができなくなり、放置しても自然に治る病気ではないので、症状は悪化し、重度の症状では最終的には失明に繋がることもあります。
チェリーアイの治し方
チェリーアイは、ごく初期で軽度であれば、綿棒や指で押し戻して整復するという治し方もあるようですが、獣医師以外の素人が試みるのは危険です。
また、その治し方で戻るとしても一時的であり、やはり再発することが多いようです。
第3眼瞼腺の炎症症状を鎮め、腫脹を軽減させるという目的で、点眼薬を使用するという治し方もあり、その場合は消炎剤の点眼薬、細菌感染に対しては抗生剤の点眼薬などを使います。
炎症症状が治まれば、突出したチェリーアイも元に戻ることがあるようですが、放置したまますでに長期間経過している場合、その治し方の効果はあまりなさそうです。
再三、突出を繰り返す場合や、突出した部分が大きい場合、眼瞼腺を固定させる軟骨部分の変形がある場合などは、外科的な手術が必要です。
手術の方法も何通りかありますが、現在、主流なのは、第3眼瞼腺埋没という術式です。
チェリーアイに対し、眼瞼腺を切除する術式で手術をおこなっていた時代もあったようですが、眼瞼腺は先に述べたように、涙の大部分を産生しています。
眼瞼腺を切除してしまうことによる、ドライアイなどの後遺症状が残ることを考え、現在はできる限り切除せず温存するという治し方が主流になります。
手術については、あらためて別記事にします。
まとめ
チェリーアイは、放置して治る病気ではありません。
また、放置されている間は犬も常に目に違和感や不快感などの症状を常に持っているのです。
放置が長期に渡れば、それに引き続いて2次的な目の病気を起こすことにもなり、最終的には失明にも繋がる病気です。
チェリーアイは、外見的に特徴があり、犬の顏を見ればすぐに発見できる病気です。
第3眼瞼は、人間にはありませんが、犬にとっては重要な役割を果たしているのです。
異常に気づいた時点で適切な治し方で対処してあげて下さい。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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