犬のチェリーアイという病気は、特徴的な外見からそのように呼ばれていますが、日本語では第三眼瞼腺突出というのが正式な病名です。
軽症な時には、病気と認識されていないこともありますが、放置すれば他の目の病気に繋がる為、適切な治療をすることが必要で、根治治療は手術です。
今回は、チェリーアイの手術と費用の目安について解説したいと思います。
チェリーアイ(第三眼瞼腺突出)は犬のまぶたの病気
チェリーアイとは、犬の目頭の第三眼瞼の裏側にある、第三眼瞼腺が裏返って表に飛び出してしまう病気です。
犬には、瞬膜とも呼ばれる三番目のまぶた、第三眼瞼というまぶたが目頭側にあります。
普段は私達と同じように、上下のまぶたを閉じたり開いたりするのですが、第三のまぶたは涙を浸透させながら眼球を外界の刺激やほこりから保護しています。
第三眼瞼の裏側には、涙を生成する第三眼瞼腺があります。
チェリーアイは、本来はしっかりと軟骨に固定されているはずのこの第三眼瞼腺の固定が悪くなり、目頭から表側に飛び出してしまう病気です。
【チェリーアイの病態と原因の参考記事】
第三眼瞼腺は、涙の大部分をここで生成する大事な器官です。
本当ならば目頭の内側にあり、涙を分泌し続けているのですが、それが表に飛び出してしまっているので、十分な涙で眼球を潤すことができなくなってしまいます。
第三眼瞼腺は、飛び出して炎症を起こして腫脹し、次第に大きくなって、目やにが多くなったり、きちんと目が閉じられないなど、症状は次第に進行します。
ドライアイを併発することが多く、そうなると犬は目の痛みを感じるだけでなく失明することもあります。
軽症のうちはこれを保存的に治療し、炎症を抑えて元の位置へ整復するという治療方法もあります。
しかし、時間が経過したものや、チェリーアイが大きくなったものはすでにそのような整復が難しくなります。
【参考記事】
チェリーアイの根本的治療は手術
チェリーアイは自然に元に戻るということはありません。
保存的に治療しても効果があがらない場合は、手術が必要になってきます。
- 飛び出している部分が大きい
- 保存的に押し戻して整復しても何度も再発する
- 長期化・慢性化している
- 他の目の病気を併発している
というような状態は、保存的治療での治癒は期待できず、手術の適応になります。
チェリーアイの手術方法は2通りある
手術の方法には、突出した第三眼瞼腺を元の位置(目頭の内側)に埋め込む埋没手術と、突出した部分を切除する切除手術の2通りがあります。
また、第三眼瞼腺を固定している軟骨がありますが、表に突出した状態が長期間続くと、この軟骨も変形してしまっていることがあります。
その場合は、軟骨を切除、形成する手術も必要になります。
手術方法は、過去には飛び出した第三眼瞼腺を切除する方法が多く選択されてきました。
しかし、この器官は涙の分泌を担っているので、切除してしまうと、その後に深刻なドライアイを併発するという問題があります。
そのために、近年では埋没法の手術が多く選択されるようです。
第3眼瞼腺埋没法
埋没法は、近年、主流となっている手術方法です。
埋没手術の方法にも、ポケット法とアンカー法という異なった術式があります。
ポケット法は、眼瞼腺の周囲に突出した部分を埋め込むためのポケットを作って、そこに第三眼瞼腺を包みこんで収納し縫合してしまう術式です。
アンカー法は、吸収される糸を使い、突出した第三眼瞼腺を奥の方に埋め込んで糸で引っ掛けて固定し出てこないようにする術式です。
埋没式にはこれらの術式の変法もあり、それぞれの病院のやり方、獣医師の方針や手技、手術を受ける犬の状態などで決められます。
埋没手術では、第三眼瞼腺を切除することなく温存することができるので、涙の分泌機能が失われず、術後のドライアイの発症リスクを避けることができます。
埋没法による手術を受けた後、少ないとは言え、チェリーアイを再発することはあるようです。
第三眼瞼腺切除手術
第三眼瞼腺を切除してしまう手術方法で、昔はこの手術が主流だったようですが、現在は術後のドライアイのリスクを考慮し、推奨されなくなっています。
第三眼瞼腺は涙の生成の50%近くを担う涙腺でもある為、これを切除してしまうと涙の全体量が減少してしまいます。
そして術後半年~6年以内にはドライアイによる乾性角結膜炎(KCS)を発症する確率が高くなると言われています。
2種類の瞬膜腺の位置の外科的な整復術が行われたが、ポケット法が最も高い成功率を示した。
長期的なフォローアップでは、外科的に瞬膜腺脱出の整復を行なった犬の方が、治療なし、または瞬膜腺を切除した犬と比べて、KCSの発生率が低かった。
中央値4.8年のフォローアップが33例で可能であり、KCS(STT<10mm/minと定義)は、5.56% (1/18)の瞬膜腺脱出がない犬、37.5% (18/48)の瞬膜腺の既往歴がある犬で発生しています。
フォローアップができた症例では、外科的に瞬膜線の切除を行なった眼では48.1% (13/27)がKCSになったのに対して、タッキング法やポケット法を行った眼ではKCS発生率は14.2% (2/14)でした。
乾性角結膜炎(KCS)は、一度発症すると、生涯に渡って治療と管理が必要になり、角膜潰瘍に移行しやすく、潰瘍がひどくなると角膜に穴が開いて失明する可能性もあります。
チェリーアイを治療せず放置している場合でも、進行すれば乾性角結膜炎(KCS)になってしまう危険があり、切除手術をおこなった場合も、やはり同じように乾性角結膜炎(KCS)になってしまう危険はある、ということになります。
しかし獣医師や病院によっては、現在も切除手術を第一選択にしているところもあるようです。
手術を受ける医療機関を選択する際は、その手術の必要性やリスクなど詳しく説明を受け、セカンドオピニオンで複数の獣医師の意見を聞く、というのは大事なことかもしれません。
ただし、第三眼瞼腺切除が必要な場合もあります。
埋没法の手術をおこなっても、やはりチェリーアイをたびたび再発する犬や、もう切除法でしか治療できない重度のチェリーアイなどでは、リスクを承知の上で切除手術を選択せざるを得なくなります。
また、一見、チェリーアイにとても良く似た症状でありながら、それが目に発生した腫瘍であるということもまれにあるようです。
*参考サイト チェリーアイに良く似ている瞬膜(第三眼瞼)の腫瘍(腺癌)
第三眼瞼腺にできる腫瘍は、頻度としては少ないものの、ほとんどが悪性の腺腫であり、切除手術が必要です。
チェリーアイと似て異なるこのような病気があることも頭に入れておいた方がよいでしょう。
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手術後の治療
チェリーアイの手術をおこなった後は、術後感染を予防するために1~2週間にわたって抗生剤の内服や点眼薬が必要になります。
術直後は腫れや充血などが見られ、突出が治っていないように見えていても、それは一時的なものであり、時間の経過と共に腫れが治まり、次第に改善していくと考えて良さそうです。
しかし、再発の可能性、チェリーアイが片側だった場合にもう片側も同様に発症する可能性、第三眼瞼腺切除手術をおこなった場合はドライアイの発症などに注意しなければなりません。
薬剤投与は基本的に手術後一定期間で終了しますが、定期的にシルマーティアテストといって涙液分泌量を測定する検査をおこない、フォローしていくことが推奨されます。
チェリーアイの手術・治療にかかる費用の目安
チェリーアイが軽度で、発症してから経過もそれほど長くない場合、まずは保存的治療を試みることが多く、病院でかかる費用は、初診料や検査料、それに薬の費用の合計になります。
チェリーアイの検査は、主に獣医師による視診や触診で診断がつきますが、腫瘍性のものが疑わしい場合、それを確認するための生検などの検査をおこなうこともあるかもしれません。
チェリーアイと容易に診断がついて、消炎剤などの薬でとりあえず経過を見る場合、犬の体重などで薬の量も変わって来るのですが、通院時の費用は5000円~10,000円くらいと考えられます。
ただ、動物医療は自由診療であり、費用の設定もそれぞれの病院で大きく違うということは珍しくないので、不安がある場合は大まかに費用の確認をした方がよいでしょう。
保存的に治療が困難な病状では、手術が検討されることになります。
手術は全身麻酔で行うので、安全のためには手術前の全身のチェック検査が必要になります。
これも病院ごとに、ルーチンの手術前検査スケジュールが組まれてあると思いますが、内容としては血液検査、胸部レントゲン、心電図が一般的ではないかと思います。
チェリーアイの手術そのものの費用の相場は、20,000円前後と考えて良さそうです。
しかし、それに術前検査の費用、麻酔費用、薬剤費用、入院費用などが加算されることになります。
入院日数は、日帰りに対応する病院もあるようですが、1泊入院を基本としているのが一般的です。
それらを全て合わせた費用として、合計約30,000円~60,000円が手術にかかる費用の相場のようです。
あくまでも片目の場合であり、両目では約100,000円が標準と考えておいた方がよいでしょう。
また、第三眼瞼腺だけでなく軟骨の変形がある場合は、手術も複雑になるので、手術費用に20,000円程度加算されることになりそうです。
医療保険に入っている場合、チェリーアイが免責事項にあり、保険の対象にならないこともあります。
免責は保険会社によって異なります。
手術の内容、費用と合わせて、保険の免責事項も確認しておいた方が良いです。
まとめ
チェリーアイを発症して経過が長くなると、保存的治療では治癒が望めなくなることが多い病気です。
乾性角結膜炎(KCS)を併発したら失明する危険もあります。
そして、そこまで重症化しなくとも、犬にとっては十分に不愉快な病気です。
もちろん早期に対処したとしても、再発が多いなど、手術も免れないことはあります。
しかし、手術そのものが困難になる前に、気付いたらできるだけ早い時期に治療を行ってください。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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