犬のクッシング症候群に併発した糖尿病 治療と予後

犬の糖尿病の初期にはいくつかの症状があるものの、それが病気の兆候であるということが分かりづらく、糖尿病が進行して初めて気づくということも少なくありません。

糖尿病には、その原因となる別の病気が背景に潜んでいる場合もあり、クッシング症候群もその一つです。

今回は、糖尿病を併発しやすい病気であるクッシング症候群とは、どのようなものかについて、解説していきたいと思います。

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クッシング症候群の病態

クッシング症候群は、別の呼び方で「副腎皮質機能亢進症」とも言われます。

副腎とは、左右の腎臓の上にそれぞれある、内分泌を担う小さな器官のことで、ここからコルチゾール(糖質コルチコイド)をはじめとするホルモンが分泌され、血液中に一定の濃度を維持しています。

コルチゾールは、抗炎症作用、糖質やタンパク質、ミネラルなどの栄養素の代謝の調節、ストレスに対する生体反応の調節、そして免疫反応の調節など、とても重要な役割を担い、生体の恒常性を維持する為に不可欠なホルモンです。

アレルギー治療などで人にも動物にも多岐にわたって使用されている、副腎皮質ホルモンやステロイドと呼ばれる医薬品は、このホルモンを人工合成させて作られたものです。

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副腎のコルチゾール分泌には、脳下垂体という、脳の直下にある器官が関与しており、この下垂体は、コルチゾールの血中濃度が低くなると、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)というホルモンの分泌を増加させます。

このACTHが副腎皮質を刺激することで、コルチゾールの分泌が促されるという2段階になっており、このようなシステムによって生体のコルチゾール濃度を維持しているのです。

しかし、このシステムの途中に何らかの問題が生じて、コルチゾールが過剰に分泌されることが持続すると、糖の代謝や免疫系に異常が現れて様々な症状を呈するようになります。

これがクッシング症候群です。

クッシング症候群の原因別分類

クッシング症候群には、原因が何であるかによって分類され、治療も異なって来ます。

①下垂体依存性クッシング症候群(PDH)

②副腎性クッシング症候群(AT)

③医原性クッシング症候群

①は、脳下垂体からの刺激ホルモンの過剰により、二次的に副腎からのコルチゾール分泌も過剰になるパターンです。犬のクッシング症候群の約8割はこのパターンで、原因は脳下垂体にできた良性腫瘍であることが多いとされます。

②は、コルチゾールの分泌器官である副腎そのものに問題があるパターンで、副腎腫瘍が原因となりコルチゾール分泌に異常が生じて過剰となります。

③は、他の疾患の治療でステロイド剤を長期投与している場合などに、薬剤の副作用としてクッシング症候群の症状が出現する状態です。

クッシング症候群の多くは5歳~8歳以上の雌犬に好発し、②は特に老犬に多く、好発犬種は特にないと言われていますが、ダックスフントやプードルに多く見られる傾向があるという意見もあります。

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クッシング症候群の特徴的な症状

クッシング症候群は、典型的な症状を呈するので、それが治療のきっかけになります。そもそも無症状の段階では治療の対象にはならず、症状出現が目安になります。

《クッシング症候群の症状》

多飲・多尿・腹部膨満・両側対称性脱毛・皮膚が薄くなる・皮膚の乾燥・色素沈着・石灰沈着・パンティング(暑い時のように舌を出してハァハァと呼吸をする)・肝臓腫大・内臓脂肪増加・骨格筋委縮(頭部や四肢)・歩行困難・心雑音・無気力

多飲、多尿はこの病気の主訴となる場合が多く、9割以上に表れるもっとも一般的な症状です。次いで多いのが皮膚の何らかの症状であり、こちらも8割以上という高確率で出現します。

《クッシング症候群の脱毛》

画像出典元 http://tamc.jp/syorei/hihu03.html

また、膀胱炎も高い確率で見られます。

のクッシング症候群に見られる腹部膨満は、通称ポットベリー(太鼓腹の意味)と呼ばれ、腹腔内の脂肪が増加して膨張するために中心性肥満とも言われます。

反対に、四肢は筋肉が落ちて細くなり、皮膚の脱毛と共に外見的にもかなり特徴的となります。

しかし、腹部膨満は肥満として、脱毛は老化現象として見なされてしまうことも多く、それで症状を見過ごされることもあります。

また、コルチゾールの過剰は糖代謝に影響し、肝臓のグルコース生成過剰を起こし、糖尿病の原因になります。

クッシング症候群に糖尿病の併発が多いのはこのような理由からで、しかもこの疾患がベースになっている為に糖尿病の治療が複雑かつ困難なものになりやすく、糖尿病の悪化を招きやすいというリスクもあります。

糖尿病の他に、高脂血症や甲状腺機能低下症の併発も起こりやすくなります。

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下垂体腫瘍によるクッシング症候群では、腫瘍が増大しすぎて直径10mm以上になると、脳を圧迫するために脳由来の症状であるうつ状態や視力障害、旋回、認知症などの症状が出現することもあり、時にこれが死に結びつく要因になることもあります。

副腎腫瘍の場合は、大血管を巻き込むと、出血などを起こして突然死するリスクが高まります。

クッシング症候群と糖尿病の合併

クッシング症候群の症状である多飲、多尿は、糖尿病においても代表的な症状であり、また、血液検査でも高血糖を示すなど類似点がいくつかあるために、最初は単に糖尿病と診断されることもあります。

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しかし、クッシング症候群に併発の糖尿病の場合、犬の糖尿病の治療では必須となるインスリン療法の効果が発揮されず、インスリン抵抗性の糖尿病のパターンに陥りやすいという特徴があります。

インスリン療法をおこなっても、血糖値の変動が激しくて安定させることが困難なインスリン抵抗性の糖尿病は、その原因を探ることが必要であり、クッシング症候群はその原因の一つです。

糖尿病と診断がついて治療を開始しても、インスリン抵抗性を示して改善が見られない場合は、大抵はクッシング症候群が疑われその検査を進めていきます。

検査と診断

クッシング症候群の検査には、血液検査、尿検査、レントゲン、ACTH刺激試験、副腎エコーなどがあります。

まず、クッシング症候群であるかどうかを明確にし、次にその分類が上記の3つのどれであるか、医原性の可能性がない(ステロイド投与中ではない)場合は、PDHかATかを区別することが必要になります。

レントゲンでは、肝腫大、副腎の腫大や石灰化、心拡大などの特有な所見が認められます。

ACTH刺激試験は、クッシング症候群であるかどうかを明確にする検査で、短時間で検査が可能でほぼ確定がつきます。ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を投与し、その反応を血液検査で測定するものです。

他にも、低用量デキサメダゾン抑制試験(LDDST)という検査が行われることもあります。

クッシング症候群が確定になれば、副腎エコーでPDHとATの鑑別をおこないます。両者はそれぞれ画像上で副腎の形状が異なり、それが診断材料となります。

クッシング症候群併発の糖尿病・治療と予後

クッシング症候群に併発した糖尿病の場合は、クッシング症候群の治療がなされない限り、インスリン抵抗性を示して血糖コントロールが困難であることが多く糖尿病の治療は難航します。

クッシング症候群の併発がある場合、糖尿病に対するインスリン療法は併用しますが、それは積極的に血糖コントロールをおこなうというより、糖尿病の重度合併症であるケトアシドーシスなどの予防が目的となります。

まずは糖尿病に優先してクッシング症候群の治療を行うことになりますが、クッシング症候群の治療はPDHとATでは異なります。

PDH(下垂体依存性クッシング症候群)

PDHでは、内服治療が一般的です。治療薬として、ミトタントリロスタンなどが選択されます。ミトタンは副腎皮質溶解作用、トリロスタンはコルチゾール合成阻害作用がある薬です。

トリロスタンに関しては、薬価の問題で治療費が高額になることが難点でしたが、現在、トリロスタンの動物医薬品であるアドレスタンが発売されて薬価も下がり、治療の第一選択薬になっているようです。

クッシング症候群の病状が改善されてくると、インスリン抵抗性も改善し、糖尿病の治療がしやすくなります。インスリン抵抗性が改善するとインスリンの効果に期待できるようになります。

多飲・多尿の症状は、どちらにも共通の症状であり、クッシング症候群が改善しても糖尿病のコントロールがつくまでは症状は持続しますが、インスリン療法の効果が得られるようになれば症状も改善されてくることになります。

クッシング症候群の内服治療で目指すのは症状の消失です。内服薬過剰投与になると、副腎皮質機能低下症に陥ってしまうので薬の量の調整が重要になります。

内服薬以外での治療法では、放射線療法(リニアック照射)、外科手術などがありますが、一般的ではありません。

PDHの予後は、下垂体腫瘍の大きさが関係し、先述したように、10mmを越える場合は脳の障害を起こして死亡のリスクも高くなります。また、併発する疾患が原因となって予後不良に陥ることもあり、糖尿病のコントロールの良否にも左右されると言えるでしょう。

AT(副腎性クッシング症候群)

一方、ATの場合は、手術可能な状態であれば、外科手術で腫瘍を摘出することが推奨になります。

しかし、腫瘍が悪性である場合は、転移や大血管への浸潤などが起こりやすく、手術が困難なことが多いようです。こちらは内科的なコントロールも難しく、予後はシビアであることを理解しておいた方がよいかもしれません。

医原性クッシング症候群

また、医原性のものについては、ステロイド剤を漸減、休止や中止をすることで、クッシング症候群は改善し、それが糖尿病の原因となっている場合は糖尿病も改善が期待できるかもしれません。

ただし、ステロイド剤を急激に減らしたり中止したりすることは禁忌です。

副腎機能が薬剤に依存している状態である為に、急に薬をカットすると副腎皮質機能低下症を起こし危険ですので、獣医師の指示に従って徐々に漸減し、日数をかけて最終的に休止あるいは中止するという段階が必要になります。

まとめ

犬の糖尿病には、それを併発するクッシング症候群という病気が基礎にあることもあります。

糖尿病そのものが初期症状を見つけにくく、症状に気付いたとしても、クッシング症候群と糖尿病は症状が似ていることから、最初は糖尿病の診断だけになっている場合もあるようです。

しかし、クッシング症候群が治療されないままだと、インスリン抵抗性となり、糖尿病の治療は難航しがちです。重要なのは、クッシング症候群が見逃されず、発見されることです。

クッシング症候群も糖尿病も、それぞれ決して治療の簡単な病気ではなく、二つが合併している状態は治療が難しいのも事実だと思います。

糖尿病のコントロールが悪ければ、さらに糖尿病合併症を引き起こすリスクも高まります。

できる限り早期に発見し、また、医療なくしての改善はないことを理解し、必ず適切な医療を受けさせてあげて下さい。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。

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