腎臓は、身体に不要な老廃物を排出する役割を持つ重要な臓器です。
腎不全になると、その役割が正常に行えなくなり、余命にも大きく影響します。
腎不全は、老齢になればどの犬もかかる可能性のある病気です。
この記事では、犬の腎不全の重症度を示すステージ分類や腎臓の検査数値の見方などについて書いています。
腎臓は重要な濾過(ろか)・排泄器官
犬の腎臓は、人と同様、背中側に左右1つずつあります。
腎臓からは、おしっこを送る尿管という管が出ていて、膀胱と繋がっています。
【腎臓の主な働き】
- 尿の生成
- 体内水分量とPHを調節
- ホルモンの分泌
- 老廃物の除去
- ビタミンDの活性化(カルシウムの吸収)
腎臓は、働きの要となる糸球体という組織、腎小体という組織、尿細管という細い管がワンセットになった「ネフロン」と呼ばれる器官が無数集まって構成されている臓器です。
ネフロンの一つずつが独立して働くことで、腎機能を保っています。
人の腎臓には左右合わせてネフロンが200万個あり、犬は80万個あるとされます。
ネフロンのそれぞれが、原尿のろ過・再吸収・濃縮などを休むことなくおこなっています。
少し専門的なのでわかりにくいかもしれませんね。
ネフロンは、体に必要なものと不必要なものを濾しているフィルターと考えるとよいかもしれません。
腎臓にはそのフィルターが無数あって、休みなく原尿の濾過をおこなっているのです。
原尿とは不要な老廃物が含まれた、おしっこになる元の液体です。
そして、必要なものは再び血液中に戻し、本当に必要のないものだけになった液体から、さらに水分を再吸収して濃縮し、最終的におしっことして体から排出します。
腎臓の機能が障害されると腎不全になる
腎不全は、このネフロンの働きが何らかの理由で障害されてほとんど機能できなくなる状態です。
腎臓病になると、ネフロンの中心の糸球体でフィルターの目詰まりを起こします。
フィルターが目詰まりすると、本来なら体外に排出されるはずの老廃物や毒素を排出することができなくなります。
水分の再吸収も効かなくなるので、おしっこを適切に濃縮することもできません。
その為に、無駄に水分の多い薄いおしっこを多量に排出し、そのせいで身体は水分が大量に失われ、脱水になってしまいます。
腎不全になるとホルモン分泌という働きもできなくなります。
腎臓が分泌するホルモンには、エリスロポエチンというホルモンがあります。
これは、赤血球を作る機能に関与するホルモンです。
腎不全になると、このエリスロポエチンが分泌されなくなり貧血になります。
さらに、腎臓は血圧を調整するホルモンも分泌しています。
その働きが滞るので、腎性高血圧になります。
ネフロンは、互いに補い合ってギリギリまで機能するので、腎不全の症状が現れるようになるまでには時間がかかります。
ネフロンの半分ほどが正常に機能していれば無症状なので、初期に気づくのはなかなか難しいです。
ネフロンの機能障害が、75%以上まで広がってくると、ようやく何らかの症状が現れるようになります。
これはつまり、腎臓病の症状が出るようになった時にはすでに75%がだめになっていることを意味します。
この時にはすでに治療も不可能であることが多いです。
壊れてしまって機能しなくなったネフロンは、もう元に戻ることはないからです。
急性腎不全=急速に進行し命の危険にさらされる
急性腎不全は、さまざまな原因で急速に腎障害が進行し、機能不全に陥ってしまう状態です。
【急性腎不全の3つのパターン】
- 腎前性急性腎不全:心臓病や脱水で腎臓に流れ込む血流が急激に減少した為に起こる
- 腎性急性腎不全:腎臓そのものの異常で起こる
- 腎後性急性腎不全:腎臓から先の器官が結石や腫瘍などで閉塞、または尿管の損傷などで、尿の正常な排出が阻害されて起こる
【急性腎不全の原因】
- 急性腎炎などの腎臓の病気
- レプトスピラ症などの感染症
- 薬物や毒物による中毒
- 降圧剤や利尿剤の過剰投与
- 尿路結石や腫瘍の増大
- 心不全
- 下痢や熱中症による脱水
急性腎不全の症状と経過
急性腎不全の1や3のパターンは、腎臓そのものは正常であることも多く、原因に対して早期に治療すれば、その後の回復に期待もできます。
ただ、大抵、発症は突然で進行が急速であり、あっという間に尿毒症に移行して死に至ることもあって、その治療は一刻を争うことになるでしょう。
エチレングリコール中毒と急性腎不全
※エチレングリコールというガソリンや保冷剤に使われる不凍液は、腎毒性が高く、誤食による急性腎不全に要注意です。
慢性腎不全=症状が目立たずひそかに進行する
慢性腎不全は、高齢犬に多く見られ、加齢による腎機能の低下が原因になることが多い病気です。
若い犬の場合は、腎炎などの腎疾患にかかったあとにそのまま慢性腎不全に移行してしまうこともあります。
また、コントロールの悪い糖尿病の合併症としても起こります。
慢性腎不全は、明らかな症状が現れないまま、数か月~数年かけて腎臓の正常な機能が少しずつ失われていく病気です。
症状が出始めて病気に気づいた時には、すでに腎臓の残存機能がわずかしか残っていないと予測されます。
なので、残存機能をどこまでもたせられるか?といったシビアな課題になると思われます。
【好発犬種】
ゴールデンレトリーバー・ジャーマンシェパード・シーズー・ミニチュアシュナウザー・ビーグル・ロットワイラー・スタンダードプードル・バセンジーなど
好発犬種は、かかるリスクが高いと言われるだけで、これらの犬種が必ず慢性腎不全になるわけではありません。
また違う犬種ならば発症しないというわけではありません。
慢性腎不全の症状と経過
【慢性腎不全の症状】
食欲不振・嘔吐・継続する軽度の下痢・多飲多尿・貧血・骨密度の低下・副甲状腺機能亢進症・むくみなど
腎臓は、ホルモン分泌により赤血球の生成やカルシウムの吸着などの役割を担っているので、腎機能が低下すれば、貧血やカルシウムの吸着が低下し骨が弱くなるなどの影響が出て来ます。
また、慢性腎不全で血中のカルシウムが低下すると、副甲状腺を刺激し副甲状腺機能亢進症という病気を発症することがあります。
慢性腎不全は、ゆっくり進行していくので、最初はこれといって目立った症状もありません。
何らかの症状が出て異変に気付く時は、すでに75%以上のネフロンが機能不全に陥っている時期です。
定期的な健診などを受けていない限り、早期発見は難しいと言えます。
腎不全のステージと検査数値の見方
腎機能を表す検査項目の数値
ここの内容は少しややこしくて面白くないかもしれませんが、興味がある方は読んでみて下さいね。
血液検査の中で、腎機能を調べる項目は、主に「BUN」「Cr(クレアチニン)」の数値です。
さらに、腎臓が悪ければ電解質の数値も変化するので、Na、K、Cl(ナトリウム、カリウム、クロール)などの数値も重要です。
もし、手元に検査データ(飼い主さんのものでも犬のものでも)があれば、項目と数値をご覧になってみて下さい。
このあたりの数値は、おそらく検査データとしてよく目にしていると思います。
BUNとは「尿素窒素」のことです。
これは、体内でエネルギーとして使われた蛋白質の老廃物の数値です。
この数値は、腎臓機能が低下して老廃物が血液中に溜まっていることの指標であり、腎機能が悪ければ数値が上昇します。
ただ、この数値は、蛋白質の過剰な摂取や他の病気の影響も受けることがあるので、それも考慮しながら判断する必要があります。
もう一つのクレアチニンという数値の方は、筋肉内にあるクレアチンリン酸という物質が、筋肉を動かす為のエネルギー源として使われたあとの老廃物の名前です。
クレアチニンも、本来は腎臓で濾過されて尿として排出されるはずの老廃物です。
腎臓機能が悪ければクレアチニンは血液中に溜まり、数値が上昇します。
ただ、この数値は筋肉量によって左右される傾向もあります。
そして、腎機能が大幅に低下して、ネフロンの機能不全が半分以上にならないと数値が上昇しない、という欠点もあります。
つまり、いよいよ悪くならなければ、異常数値として現れにくいのです。
近年では、犬の腎臓機能検査に新しく、SDMA(対称性ジメチルアルギニン)という項目の追加が推奨されているようです。
この検査も、簡単に言うと理屈はクレアチニンと同じです。
SDMAはクレアチニンよりも早い時期に腎臓の機能不全がわかるというメリットがあり、クレアチニンの欠点を補うことができます。
その結果、1年半近くも早めに慢性腎臓病の診断が可能になるということで、早期発見に大変有用な検査になると思われます。
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease : CKD)のステージ分類
犬の慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease : CKD)は、血液検査の数値から、その重症度によってステージ1~4の4段階に分けられます。
ステージ分類の基準になる数値は、血清クレアチニンの数値です。
♦ステージ1
- 血清クレアチニン濃度の数値:1.4mg/dl未満
- 残存腎機能:33%
- 尿比重:正常~1.050 蛋白尿
症状は特にないか、多飲多尿の傾向が多少見られるくらいで、気づかれることもほとんどありません。
この時点ですでに、腎臓機能は正常な腎臓の33%程度まで落ちているということになります。
♦ステージ2
- 血清クレアチニン濃度の数値:1.4~2.0mg/dl
- 残存腎機能:33~25%
- 尿比重: 1.017〜1.032(低比重尿) 蛋白尿
腎臓の機能は、正常の時の4分の1程度しか残っていません。
おしっこを濃縮する水分の再吸収の能力が低下しているので、比重が低く薄いおしっこを多量に排泄します。
体は水分不足になり、喉が渇くので多飲になります。
それでも犬の全身状態は悪くないので、検査などしない限りはまだ気づかないことも多いです。
♦ステージ3
- 血清クレアチニン濃度の数値:2.1~5.0mg/dl
- 残存腎機能:25~10%
- 尿比重:1.012〜1.021(低比重尿) 蛋白尿
腎臓はすでにその75%が破壊され、病気が進行して全身に症状が現れるようになります。
老廃物の排出は困難であり、体内に蓄積した毒素が血液の流れによって全身をめぐります。
その影響で食欲不振・吐き気・下痢・嘔吐・貧血などの症状が見られるようになります。
全身の状態は悪くなり、このステージでは健康状態が悪いことに気づくはずです。
♦ステージ4
- 血清クレアチニン濃度の数値:5.0mg/dl以上
- 残存腎機能:10%以下
- 尿比重:1.010〜1.018(低比重尿) 蛋白尿
腎臓の機能は正常の時の10%以下しかなく、ほとんど機能していません。
ステージ4は、腎不全末期のステージです。
老廃物は排泄されることなく血液中に多く溜まり、尿毒症と言われる重度の状態に陥って生命も危険にさらされます。
腎不全の予後と余命
壊れたネフロンは、治療しても元に戻ることはありません。
腎不全の治療の目的は、「残った腎臓の機能を長く保たせること」です。
余命は、慢性腎不全のどの段階で診断がついたのかによっても違います。
特に症状はない時点で、健診などで腎機能の数値異常などで早期にわかった場合は、残された腎機能にはまだ余裕があるでしょう。
腎不全の進行を遅らせるには、例えば食事療法など、生活上で対応できることもあり、手厚いケアによって余命を延ばすことができている犬もいます。
慢性腎不全の余命は、診断がついてから1年半~2年と言われるようですが、ケア次第であり個体差があると考えられます。
いよいよ末期状態になってわかった場合は、残念ながら余命は極端に短くなります。
尿毒症は腎不全の末期であり、そのようなステージであれば、すでに余命1週間~1ヶ月という切羽詰まった状態かもしれません。
血液透析という治療法
急性腎不全で、もし血液透析という治療を受けることができれば、回復が望めるケースもあります。
急性腎不全は、腎臓そのものに問題がなく、中毒物質などが原因となって腎不全を起こしているパターンがあります。
そのようなケースでは、早期に血液透析を導入して急性期を乗り越えることができれば、回復の可能性も広がります。
一方、慢性腎不全がじわじわと進行して腎機能が壊れてしまっている状態は、血液透析は難しいと思われます。
私は、血液透析センターの勤務経験がありますが、人の透析治療の対象は基本的に慢性腎不全です。
もちろん急性期の緊急透析などもありますが、定期的に1回4~5時間、週3回~4回で継続的に透析治療をおこなっているのは、慢性腎不全の患者さんです。
慢性腎不全の透析治療は、いつまでという期限がありません。
腎移植をおこない、新たな腎臓が体内で機能しない限りは、その人の腎臓は死ぬまでダイアライザー(人工腎臓)が代替していくことになるのです。
しかし、人と違って、犬の血液透析は、まずどこの病院でも対応できるわけではないでしょう。
透析治療は、高度な動物医療をおこなっている一部の機関に限られると思います。
さらに、一回に4~5時間かかる透析を週に何度も、また、定期的に永久的に犬におこなうこと自体が現実的な治療法と言えないでしょう。
犬の血液透析は、急性腎不全、または慢性腎不全が一時的に悪化した時には有効かもしれないですが、慢性腎不全の継続治療としては難しいと思います。
まとめ
腎不全には急性と慢性があります。
急性腎不全は何らかの原因があって突然発症して急速に進行、慢性腎不全は明らかな原因がなく、主に高齢犬でゆっくりと進行します。
いずれも分かった時には手遅れである可能性も高いです。
高齢犬では、元気であっても健診を受けるようにすることで、腎臓病だけに限らず病気の早期発見に繋がるはずです。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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